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名前は、戦争が終わってから

作者:parupuntist
最終エピソード掲載日:2026/09/12
照明弾の白い光。硝子の天蓋を叩く雨。逃げまどう避難民を、兵士の身体は、正確に撃ち抜いていく。けれど、その身体の内側にいる「わたし」には、指一本動かせない。やめろと叫んでも、声は届かない。

目を覚ますと、狭い兵舎にいた。昨夜まで同じ部屋で眠っていたはずの三人の戦友は消え、床には十か月分の埃が積もっている。名前も、過去も、思い出せない。手がかりは、軍用番号「五二八六三」だけ。

回収に現れた男の首を、身体は、一瞬で折った。男の端末に残されていた指令は、三行だけだった。

回収せよ。 記憶保持状態を確認せよ。 そして――中央記録塔の消去作業までに、処分せよ。

外に出ると、街は復興の途中にあった。戦争は、十か月前に終わっていた。わたしにとっては、昨日のことなのに。

仮設遺体安置所で出会ったのは、記録係のユノ。停戦の直前、避難民三百人が殺された「第九避難所事件」で弟を失い、公式発表の嘘を、九か月、ひとりで追いつづけてきた女だった。

戦時記録がすべて消される式典まで、あと十四日。消されようとしているのは、あの夜の真実なのか。それとも、わたし自身なのか。

身体が勝手に動くとき、それを見ている「わたし」は、誰なのか。 あの雨の駅で、殺したのは、誰なのか。

兵舎のベッドの裏には、四人で刻んだ約束が残っていた。

――名前は、戦争が終わってから。

記憶と記録、罪と選択をめぐる、SFミステリー。
プロローグ
一 雨の駅
2026/09/12 10:47
二 四つの寝台
2026/09/12 10:48
三 笑う男
2026/09/12 10:50
五 灰色の足跡
2026/09/12 10:52
六 白い塔
2026/09/12 10:52
第一章 戦争の終わった街
一 第三〇四日
2026/09/12 10:53
二 尋ね人の壁
2026/09/12 10:56
三 照会不能
2026/09/12 10:56
四 氷上の番犬
2026/09/12 10:57
第二章 三つの空床
一 焼却予定
2026/09/12 11:01
四 ベッドの下
2026/09/12 11:04
五 短い歌
2026/09/12 11:04
七 燃える兵舎
2026/09/12 11:05
第三章 記録にない兵士
一 塔の喉
2026/09/12 11:06
二 三百名
2026/09/12 11:07
三 地下七層
2026/09/12 11:07
四 殲滅
2026/09/12 11:08
五 欠けた映像
2026/09/12 11:08
六 照準
2026/09/12 11:09
第四章 もうひとつの視線
二 白い繊維
2026/09/12 11:11
四 断片
2026/09/12 11:12
五 見届ける目
2026/09/12 11:12
七 あなたには
2026/09/12 11:13
第五章 差し出された名前
一 線路の果て
2026/09/12 11:14
二 白い聴聞室
2026/09/12 11:15
三 出生記録
2026/09/12 11:15
五 整える
2026/09/12 11:16
六 一秒
2026/09/12 11:17
七 返した名前
2026/09/12 11:17
第六章 殺戮の全景
一 北丘観測所
2026/09/12 11:18
二 四人の声
2026/09/12 11:18
三 別の角度
2026/09/12 11:19
五 わたしの手
2026/09/12 11:20
六 一発の弾
2026/09/12 11:20
七 見せる
2026/09/12 11:21
第七章 二度目の殲滅
一 式典の夜
2026/09/12 11:21
二 公開聴聞
2026/09/12 11:22
四 ユノの声
2026/09/12 11:23
五 接続
2026/09/12 11:23
第八章 五二八六三の体温
一 修理室
2026/09/12 11:25
二 胸の中
2026/09/12 11:26
三 内部診断
2026/09/12 11:27
五 許さない
2026/09/12 11:27
六 名前
2026/09/12 11:28
七 体温
2026/09/12 11:28
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