エルフの走馬灯

――この人を笑顔にしなきゃいけない。

流麗な金髪、剣先のような長い耳、妖精のような可憐な容貌。
そして、深い絶望を湛えたドス黒い眸。

ワイバーンに全てを燃やされたばかりの八歳の僕は、ワイバーンを一撃で屠った魔法使いの少女を見て、そんな使命感に満たされた。

だから、僕は彼女に一方的な約束をした。
大人になったら、あなたを笑顔にする為に会いに行きます、と。

それから十年、僕は彼女を笑顔にする日の為だけに生きた。
そして十八歳になった僕は、彼女と念願の再会を果たす。

やっと、彼女を笑顔に出来る。
彼女の黒ずんだ眸を晴らすことが出来る。
僕の全てを費やして、彼女を幸せに出来る。

――そう思っていた。

でも、出来なかった。
彼女はもう、走馬灯の中にいたから。

救いようのない童貞が、救いのなかったエルフの少女を救おうともがく話。