断章3 とあるエルフの別れの記憶
『アコニットくんだぁ。いらっしゃい』
僕は、初めて見た時からスプリちゃんのことが好きだった。
スプリちゃんは僕より少し早く生まれた女の子だ。
いつもニコニコしてて可愛いかった。
いつも優しくて、怯えてばかりの「お母さん」よりもずっと僕を可愛がってくれた。
外に行きたい、っていう僕の話も笑わないで聞いてくれた。
『私も……一緒についていってもいい?』
「うん!一緒にいこ!」
絶対に僕の一人目の子供を産ませようと思ってた。
でも、僕が九歳の時、いつものように遊びに行くとスプリちゃんが家にいなかったのだ。
「スプリちゃーん!どこー!?」
一日中集落の中を探し回っても、どこにもいなかった。
「サンタカさん! スプリちゃんはどこに行ったの?」
スプリちゃんは第八王のサンタカさんの子供だった。
だからサンタカさんなら知ってると思って、第八王宮に会いに行った。
「スプリ……? あぁ……アレはもういないよ」
サンタカさんは、たくさんの人間のメスに「お母さんの番号」をつけながら、そう答えた。
「いないってどういうこと!?」
僕は凄く怖くなって、サンタカさんに縋りついた。
すると、サンタカさんは僕を殴りつけた。
「今忙しいんだから、話しかけるなよ!? 殺しちゃうぞ!? 」
「ごめんなさい……」
僕は泣きながら、家に帰った。
そのあとになって、スプリちゃんが追放されたのだと知った。
何かは分からないけれど、悪いことをしたのだそう。
追放になったエルフの話はしちゃいけない決まりがあったから、僕はスプリちゃんのことを言わなくなった。
大人になったらスプリちゃんに会いに行こう。
そう思って、毎日過ごした。
それから十年、二十年、三十年と時が流れて、それでも僕はスプリちゃんのことをずっと思っていた。
最初の子供はスプリちゃんに産ませたいからとっておいた。
四十歳の頃に、僕は第一王になった。
集落では魔力の強い順で偉さが決まるから、僕が一番になるのは子供の頃から決まってたのだけど、四十歳にならないと王になれない決まりがあったのだ。
王になると、色々な特権がもらえる。
王以外のエルフや人間を殴る権利と殺す権利。
子供を産ませる権利。
それと、
――王の秘密を知る権利。
僕は、王になってようやく、スプリさんがいなくなった理由を知った。
追放とは、人間のメスと交換することだったのだ。
第八王宮で見た光景を思い出す。
サンタカさんが番号を彫っていた、新しいメス十五匹。
サンタカさんは、アイツは、スプリさんをたかがメス十一匹と交換したのだ。
許せなかった。
醜いメスの束なんかの為に、スプリちゃんが僕の前からいなくなるなんて、誰がどう考えてもおかしいことだ。
そもそも集落の仕組みがおかしい。
別に数なんて無理して増やす必要なんてないだろうに。
なんでそこまでして繁殖しようとするのか、意味が分からない。
サンタカもシャルロウも、他の王どもも、みんな頭がおかしいんだろう。
メスなんか、一人でいい。
一人だけ、最高のメスがいればいいのだ。
醜いメスの為にくれてやる子種なんて、一滴もないのだから。
病気でもうつされたらどうするんだ?
だから、僕はまず集落にいる人間のメスを全員殺した。
メスどもは視界に入れるのも嫌なくらい醜いけれど、連れてこられただけだからあまり痛めつけないで殺してあげた。
魔法で首を縛り上げて息を出来なくすれば、怪我をしないから一番楽に死ねるのだ。
でも、真っ赤になっていく顔が気持ち悪かったから、結局顔を削いじゃったけどね。
ともかくこれで、バカな王どもが頭を冷やすだろう。
そう思っていたんだけれど。
なぜか、王どもが僕を殺そうとするようになった。
なんで?って聞いても、「お前は悪魔だ」とか「死ね」とか、そんなことばっかり言って答えてくれなかった。
やっぱり頭がおかしいらしい。
だから、全員殺した。
指をちぎって、手や足を引っこ抜いて、お腹の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜてから、頭をぺしゃんこにした。
それで、全員生き返らせた。
王は王以外なら殺してもいいけど、王を殺してはいけないから、身体をざっくり治して魂を戻してあげたのだ。
もしかしたらこれでおかしくなった頭も治るんじゃないか、って思って、少し期待していたのだけど……
七十回やっても結局治らなかった。
王は殺しちゃいけないけど、治らない病気だから死んじゃったほうがいいしなぁ。
そう思って、生きてるけど何も出来ない形にして、森の生き物にあげた。
僕が殺したわけじゃないから、大丈夫だった。
集落に残ったのは、王じゃないオスと、スプリちゃんじゃないメスだけだった。
僕は何も悪いことをしていないのに、みんなまるで悪い人を見るような目をしていた。
すごく嫌な気持ちになったから、全部殺した。
集落が、僕だけになってしまった。
まぁスプリちゃんがいるからなんでもいいか。
僕はスプリちゃんを探す旅に出た。
でも全然見つからなくて、もしスプリちゃんが醜いオスどもの子を産んでたらどうしようかと心配で、イライラして、むしゃくしゃして、その度に近くにいた人間を殺して我慢した。
ほんと醜くて、数が多くて、嫌になる。
あちこちを探し回って、もう何十年経ったか分からなくなった頃、僕は廃墟の中で、ついに見つけた。
「――スプリちゃん!」
僕はすごく嬉しくて、勢いよく抱きついた。
このまま子供を作りたいと思うくらい、幸せな気持ちになった。
「……スプリちゃん?」
でも、彼女は目の奥が真っ黒になってて、悲しそうで、幸せじゃなさそうだった。
僕はスプリちゃんに会えてすごく幸せだったのに、スプリちゃんが幸せじゃなかったから、幸せじゃなくなった。
だから、幸せにしてあげようと思った。
「スプリちゃん! 僕と一緒に旅しようよ!」
スプリちゃんは子供の頃、僕と一緒に旅をしたいって言ってた。
だから、旅をすれば幸せになると思ったんだ。
それから、僕はスプリちゃんと手を繋いでいろんなトコへ行った。
海を見に行ったり、大きな滝を見に行ったり、大きな龍を倒したり、変わった動物の背中に乗ったりもした。
旅をしているうちに、スプリちゃんは少しずつおしゃべり出来るようになって、ちょっとずつ笑うようになっていった。
僕はスプリちゃんと一緒に旅が出来るだけですごく嬉しいのに、スプリちゃんの笑顔を見るともっと嬉しかった。
嬉しくて、幸せで、すごく楽しくて、
――もう我慢できなかった。
僕は隣で眠るスプリちゃんに覆いかぶさって、服を脱がそうとした。
スプリちゃんがなぜか抵抗して中々うまくいかなかったけど、最期は魔法で動けないようにして、脱がしてあげた。
「えー!? なにこれ!?」
僕はすごく驚いた。
スプリちゃんのアソコが、めちゃくちゃにされて無くなってたのだ。
「なんでなんで!? どうして!?」
僕は何度も聞いたけど、スプリちゃんは泣いてばっかで教えてくれなかった。
スプリちゃんが悲しそうで、僕も悲しくなった。
そのまま僕達は眠ることにしたのだけど、僕の頭の中はスプリちゃんのことでいっぱいだった。
信じられなかった。
ありえない。
ありえない。
僕のスプリちゃんがもうダメになってた。
僕がまだ使ってないのに。
スプリちゃんの為に我慢してきたのに。
なんでこんなイヤな気持ちにならないといけないの?
なんで?
なんでなんで?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?
いっぱい考えたけど、分からなかった。
分からないが頭の中にいっぱいになって、苦しくて、辛くて、おかしくなった。
僕は頭がおかしくなった。
だから、
――治さなきゃ。




