桜の夢路　〜孤独な少女は一人の神獣に愛され、一人の烏に護られる～

　自己制御不能な異能の片鱗を幼くしてみせたひなは、齢９歳にして孤独な人生を強いられた。彼女を知る者だけではなく形ばかりの養育者である祖父母も、ひなの事を気味悪がり最終的に育児放棄して家を出て行ってしまった。

　その頃から居場所を無くしたひなは毎日のように「ここじゃないどこかに連れて行って欲しい」と近所の神社に願うようになる。

　そしてある晩、その神社に光をまとった一匹の神獣――麒麟が姿を現す。ひなは彼に願い乞い、神隠しを自ら望んで現世から彼の住む幽世へと連れて行ってもらった。

　幽世は、現世で亡くなった人間たちの魂の「最終審判」の場。現世での業の数や重さによって形の違うあやかしとして、現世で積み重ねた業の数を幽世で少しでも減らし、極楽の道へ進める可能性をもう一度自ら作るための世界。
　現世の人のように活気にあふれるその世界で、ひなは麒麟と共に生きる事を選ぶ。

　ようやく心から安心できる場所を手に入れ幸せになれるように見えたひなだが、ある日、現世で事故によって亡くなり幽世に来た少女の魂が、肉体を持ったまま幽世にいる彼女に目を付ける。少女は現世に強い未練を残した魂であり、少女に体を乗っ取られる形で再び運命に翻弄されてしまう。

　現世に戻る事を頑なに拒んでいたひなが少女によって強制的に現世に連れ戻されたことで、現世と幽世との時間の速さの違いから、ひなの肉体は９歳から14歳へと急成長する。
　それからと言うもの、ひなは少女に乗り移られたまま現世での生活を余儀なくされ、更に３年の歳月を現世で過ごすことになった。その間、麒麟とその従者である八咫烏の捜索は続いていたものの、少女がひなの力を使い身を隠した事でなかなか見つけることが出来ずにいた。

　やがて、身体を長く乗っ取り続けた少女は二人によって討伐される時がくる。そして再びひなは幽世へ戻る事になった。
　少女によってひなの異能は完全に解放されてしまい、それをひなは上手くコントロール出来ない。二人の助けを借りながら、その力をコントロールする術を身に付けていこうとするひなだったが、彼女には更なる試練が待っていた。