動き出す執念
ひなを始めとし、ヤタたちは「裁きの間」として利用されている広場に集められた。
窓もなければ色も何もない、ダンスホールかと思われるほど広々とした殺風景な場所。あるのは部屋の中央に置かれた椅子が二つと、机が一つあるくらい。
閻魔は、その椅子の一つに深く腰を掛け、彼らを待っていた。
「来たか」
全員が来たことを確認し、周りに自分たち以外の人影がないとわかっていても、閻魔は声を落とした。
その気迫に、全員が息を呑んだ。
「今後の話をしよう」
閻魔はひなたちを見据え、前置きを作らず単刀直入に本題に入る。
「阿修羅本体が洞窟から出てくるのは、もはや時間の問題だ」
閻魔は顎に手をやり、一同を流し見た。その目は鋭く、見る者によっては恐怖に気を失う者もいるほど、強面だった。
「阿修羅の狙いは二つ……」
流し見る視線は、ひなで止まった。その瞬間、ひなは意図せずびくっと肩を震わせ、拳を握りしめた。
「ひな殿を、力ごと取り込むこと……そしてもう一つ」
閻魔は、トン、と人指し指で机を一つ叩く。
「麒麟の抹殺」
その言葉に、理由を知るヤタたちは表情を硬くし、全部を知らないひなは戸惑いの色を露わにする。
「す、すみません……なぜ、麟さんまで?」
「簡潔にいえば、麒麟は帝釈天の命を持たされているからだ。つまり……」
言葉を続けようとして、閻魔は瞬間躊躇った。
どう伝えるべきか……。
黙った閻魔にひなは不安な顔で見つめる。
「つまり……麒麟が倒れれば、帝釈天も倒れ、この三世界の崩壊を生むことになる」
ひなは顔色を変え、言葉を失う。
事の真相は、いつもひなの想像の斜め上をいく。心のどこかで、自分だけの問題だと思っていた。だが、事態はより深刻な状況だった。
「……一歩間違えば、全てが崩れるってこと、ですよね」
「そうだ」
言葉を濁すこともなく、閻魔が深く頷き返す。
――君の存在は危うく、そして尊い。
少し前に言っていた閻魔の言葉の意味が理解できた。
意図せず寒さを感じ、ひなは身震いをして自分の体を抱きしめる。
「先の対峙とはまた違う戦い方になる。帝釈天、麒麟も今回の対峙には参加できない。と、なれば、ここにいるお前たちと、麒麟の式神とわしで奴を迎え撃たなければならん」
「前回よりも不利ってことか……」
それとなくヤタが呟く。
「主要人物が欠けているからな。だが、利点があるとすれば、奴の力は半減している」
もしひなが相手側に渡れば、勝機はない。といい含む閻魔に一層空気が重たくなる。
「ひな殿を奪われないよう、我々はまず配慮しなければならない」
閻魔の言葉に、ひなを除く三人全員が何も言わず頭を下げた。
「それから、もう一つ。危険因子がいるだろう」
危険因子。それを聞いてヤタと獅那は小さく反応を示した。
「……マオ、ですか」
ヤタの視線が微かに陰る。だが、その眼光は鋭い。
「そうだ。ひな殿をここへ突き落すほど、彼女は自分の存在を見誤っている上に、不安定だ」
「……長く共にありながら、見抜けなかったことは、俺の失態です」
ヤタ自身も彼女の行動や思惑を見抜くことができなかった。それを悔いているのか、握る拳に力が入る。
後悔を滲ませるヤタに対し、不知火はそんな兄の肩に手を置いた。
「兄上。長く傍にいるからこそ、見抜けないものもあります」
ヤタは静かに語る不知火を見て、怪訝な顔を浮かべる。
「不知火……?」
「彼女は……」
不知火は一度言葉を切り、閻魔を見る。
このことが、彼を追い込むことになりかねない。それを懸念している目だった。
「八咫烏。彼女はな……阿修羅の諜報員という話だ」
不知火の代わりに閻魔が答えると、ヤタと獅那が驚きに目を見開く。
「!?」
愕然としたヤタたちは、言葉を失った。




