衝撃の事実
「……やはりそうか」
報告を受けた麟は、いつになく険しい表情を浮かべていた。
仕事を区切りの良いところまで片づけ、居住区へ戻ってきた麟は、その足でひなの部屋に来ていた。
麟の前に座っていたひなは、彼の後ろに立っている二人をちらりと目を向ける。
痩身の、表情が読めない寡黙な男性に、快活そうな筋肉質の浅黒い肌の男性。この二人が、先ほど獅那が話していた式神の二人だと気付く。
「ひな、腕を見せてごらん」
「う、うん」
ひなは麟に腕を見せる。
痣のついた手首を見つめ、痣の跡に、麟は何かに感づいて目を細めた。そのわずかな変化にひなは感づくも、すぐに彼の表情は元に戻る。
「ひな」
「は、はい」
「君に、いわなければならないことがある」
改まって話す麟の口調はいつになく硬く、彼の表情も硬い。
そんな彼の雰囲気に、いつもは穏やかな空気に包まれているはずのこの部屋の空気までもが、張り詰めたような緊張感に包まれている。その空気に、自然とひなも背筋を正す。
「君の夢を介して接触してきた黒い男は、阿修羅で間違いないだろう」
その名前に、ひなの胸には不快感が蘇る。今思い出しても、あの男の気味悪さには鳥肌が立つ。
「ひな。もうわかっているんだろう?」
男のことを思い出し、体温が下がったひなは自分の腕を摩りながら頷いた。
「あの男が、私の……」
それ以上の言葉をいうのが憚られる。むしろ、口にしたくなかった。
口を引き結び、ひなは眉間に皴を寄せて視線を伏せる。
――認めたくない。
心の中で、ひなはそう呟いていた。
阿修羅の血が、自分の中にあるという現実に、例えようのない嫌悪感と緊張感に、喉が渇く。
「夢で……」
ひなは腕に触れていた手に力を込めた。
「阿修羅は、私を迎えに来るといっていたの……」
改めて、自分の口でそう伝えると、現実味を帯びたような感覚になり、体の芯から震える。
いつもなら、麟はそんな彼女に寄り添い、落ち着くまで抱き寄せることをしていた。だが、今回は一人の、幽世の番人としての威厳の元、口を開く。
「ひな。あの男は必ず君に接触をしてくる。今はまだ、夢を介する以外術はないが、いずれ君の前に姿を現すはずだ」
麟は、そこで一度言葉を呑み込んだ。そして視線を僅かにそらす。
「全ては、君に移った力を取り戻すため。そして、私を消すため」
麟のその言葉に、微かにヤタが反応を示す。だが、それは誰も気づいていない。
ひなは悲壮な面持ちで目を見開き、麟を食い入るように彼を見つめる。
「何で、麟さんまで……?」
「あの男の望みは、すべての破壊。君があの男の元に渡れば、事態は最悪な方へ転がる」
目を細める麟の眼差しは、射貫くような鋭さが秘められている。
「そのために、今回眠らせていた式神を起こし、配備させた」
ひなは、麟の隣に座っているヤタに目を向けると、彼を筆頭にその背後に四人の式神たちが折り目正しく座している姿が見えた。先ほど、あどけない笑顔をみせていた糾卯も、鋭く見据える勇ましさをみせている。
「八咫烏」
「はい」
麟に名を呼ばれたヤタは、いつものような砕けた言葉ではなく、凛々しい返事を返し、片手を畳について小さく頭を下げ、そして真っすぐにひなを見つめた。
「獅那、糾卯、狒猿、把蛇は俺の指揮のもと、これより警戒態勢に入ります」
「小さなことでも随時報告を頼む」
「承知いたしました」
ヤタは再び小さく頭を下げる。そしてひなへ視線をやると、わずかに表情を緩めた。
「ひな。心配するな。俺たちが守ってやる」
「……」
守ってやるといわれ、胸が掴まれるような思いに包まれる。素直に喜べない。
ひなの胸中は酷く複雑で大きく揺れていた。
「……ひな」
俯きかけたひなを、麟は緊張感と固さを解いたいつもの柔らかい口調で声をかける。その優しい声音に縋るように、ひなは視線を上げた。
「どんな時でも、君らしさを失わないでほしい。君が君でいる限り、私もまた道に迷うことはなくなる」
「……麟さん」
「君は、私の生きる道しるべだ。私も、君と共にある」
「……」
その言葉が、ひなには心を落ち着かせる安定剤になる。
今まで一人で戦ってきたが、今回は一人ではない。それが強い心を持たせてくれる。




