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松木ひろ子さんの、腸内人民共和国【第百二十七回 ミツオケラ人民大会議】 «Bellum et Pax»

作者:東曌
最新エピソード掲載日:2026/10/16
松木ひろ子の腸内には、無数の細菌が暮らす巨大な社会が存在する。

その国の名は、腸内人民共和国。

建前上、すべての細菌は平等な人民であり、人民大会議は最高の意思決定機関である。

しかし、実際に権力を握っているのは、腸内細菌全体の約7%を占めるという設定のミツオケラ党だった。
党は「腸内の安定」を掲げ、人民大会議を定期的に開催する。各地から代表が集まり、議案が読み上げられ、拍手が起こり、決議は満場一致で可決される。

ただし、議案は会議が始まる前から決まっている。
反対派は存在する。しかし、党が認めた範囲でしか反対できない。批判は許されるが、政権の正統性を疑うことは許されない。

そんな社会に、ある日、新たな政治問題が持ち上がる。
それは「デブ菌」と「痩せ菌」の分類をめぐる争いだった。

ミツオケラ党は、複雑な腸内細菌の世界を、人民に分かりやすい二つの陣営に分類しようとする。ところが、ファーミキューテス門に属するブラウティア属の代表が異議を唱えた。

「同じ分類群に属するからといって、同じ役割を持つとは限らない。そもそも、誰が我々をデブ菌と呼ぶ権利を持っているのか」
党が掲げる分かりやすい分類は、たちまち政治的な武器になる。
党に協力的な菌は「健全な人民」と呼ばれ、批判的な菌は「腸内秩序を乱す勢力」と呼ばれる。科学的な事実をめぐる議論は、いつしか忠誠心を試す政治闘争へと変わっていく。
そこに、名無しの七号という小さな代表が現れる。
彼には権力も、後ろ盾も、立派な分類名さえない。
しかし、彼にはひとつの能力があった。
数字を疑うこと。

発表された統計と現実の違いを見つけ、公式記録の空白に気づき、誰も尋ねない質問を口にすることだった。
やがて、松木ひろ子の食生活が変化する。

腸内に届く栄養や環境条件が変わり、細菌たちの生態系にも変化が生じる。党が長年維持してきた資源配分と勢力均衡が揺らぎ始める。
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