第二十一話 人民は、まだ夕食を決めていない
いよいよ最終話です。
ひろこさんの食生活も、腸内人民共和国の政治も、一夜にして理想郷にはなりません。
でも、ミツオケラたちが「ひろこさんの意思」を自分たちの都合で解釈してきたことに、少しずつ変化が生まれます。
腸内人民共和国の歴史において、もっとも重大な会議が開かれようとしていた。
会議の名称は、
《腸内人民共和国の今後の運営と、本人の選択の尊重に関する最終確認大会議》
である。
名称が長い。
長すぎる。
議長菌は、開会の挨拶を始める前に、議題の名称を読み上げるだけで疲れてしまった。
「えー、本日の議題は……」
議長は書類をめくった。
「……本日の議題は、別紙のとおりです」
会場に拍手が起きた。
議事の簡素化が、さっそく実現したのである。
ただし、議事の簡素化を実現したのは、議長の疲労であった。
*
ミツオケラ十三世は、演壇に立った。
「同志諸君。我が国は、これまで多くの困難を乗り越えてきた」
ブラウ太郎が、小声で言った。
「困難の半分くらいは、君たちが作ったものだがな」
「発言を慎みたまえ!」
十三世は咳払いをした。
「我が党は、長年にわたり、腸内の安定と秩序を維持してきた。我々の支持基盤は、およそ七パーセント。少数ではあるが、歴史的使命を担う勢力として、国家運営の中心を担ってきた」
「七パーセントで、どうして中心を担えるのかね」
バク長老が尋ねた。
「歴史的使命があるからだ!」
「その使命は、誰が決めたのだ」
「歴史が決めた!」
「歴史に確認したのか」
「……歴史とは、そういうものではない!」
「便利なものだな、歴史というのは」
十三世は、長老を睨んだ。
長老は、お茶を飲んだ。
この国では、長老がお茶を飲んでいるとき、議論で勝つのは難しい。
相手が怒っている間にも、お茶は冷めるからである。
「しかし、我々も変わらなければならないことは理解している」
十三世は、演説を続けた。
「今後は、本人の選択を尊重する。記録の不備を見直す。未解決の案件を、回答済みという理由だけで処理済みにしない。改革の実施率だけで、改革の成果を判断しない。そして、我々自身が誤っていた場合には、それを認める」
議場がざわついた。
ミツオケラ党の幹部たちは、互いの顔を見合わせた。
最後の項目が、特に不評だった。
「十三世、それでは政府の威信が損なわれます」
側近が耳打ちした。
「では、どうすればよい」
「誤りを認める場合にも、一定の手続きを設けては」
「どのような手続きだ」
「まず、誤りの定義を決定する委員会を設置します」
「その委員会は誰が監査するのだ」
「監査人の監査委員会を設置します」
「その委員会は誰が監査するのだ」
「……検討が必要です」
十三世は、頭を抱えた。
「やめよう」
「よろしいのですか」
「これ以上、委員会を増やしたら、委員会のために腸内を運営することになる」
名無しの七号が、記録帳に書き込んだ。
《委員会の増設について、当面の見送りを決定》
その下に、小さく付け加えた。
《なお、見送りを監視する委員会は設置しない》
ブラウ太郎が、それを見て笑った。
「七号、君は本当に記録係に向いているな」
「派手な仕事は、皆さんが得意ですから」
*
会議の途中、コウシン太郎が立ち上がった。
かつて、ミツオケラ党の政策立案を担い、改革の必要性を理解しながら、改革の範囲を決める側にもいた男である。
「私は、ひとつ訂正したいことがあります」
「何をだ」
十三世が尋ねた。
「これまで私は、制度を変えれば、人々の問題も解決に向かうと考えていました」
「間違っていたのか」
「間違いではありません。ただ、それだけでは足りなかった」
コウシン太郎は、手元の書類を見た。
「手続きが整えば、記録が残る。担当者が決まれば、責任の所在が明らかになる。期限が設けられれば、放置されにくくなる。そうした改革には意味があります」
「ならば、何が足りなかったのだ」
「制度の外側にいる人の時間です」
議場が静まった。
「我々は、改革の実施率を計算しました。何件の記録を整えたか。何件の回答を送ったか。何件の担当者を決めたか。それらは数えられる。しかし、返事を待っている人が、どれほど長く待ったのか。返事を読んだあと、何が変わらなかったのか。そうしたことを、我々は十分に数えてこなかった」
名無しの七号が、ゆっくりと頷いた。
「記録に残すことと、問題を解決することは違う」
コウシン太郎は続けた。
「そして、改革を進める側が、改革によって自分たちの評価を上げようとすれば、都合のよい数字ばかりを選び始める。私も、その誘惑から自由ではありませんでした」
十三世は、黙っていた。
ブラウ太郎も、今回はすぐには反論しなかった。
誰かが自分の誤りを認めるとき、周囲がすぐに勝利宣言をする必要はない。
むしろ、その瞬間を利用して、自分たちの正しさを大きく掲げることのほうが危うい。
バク長老が言った。
「自分を疑うことは、自分を否定することではない。間違っていないか確かめられる者だけが、間違いを直せるのだ」
「しかし、長老」
十三世が言った。
「それでは、政治家はいつまでも安心できないではないか」
「安心するために政治をしているのかね」
「……国家を安定させるためだ」
「安定と、動かないことは違うぞ」
長老は、湯飲みを置いた。
「身体だって、いつも同じ状態でいるわけではない。食べるものが変われば、環境も変わる。生活のリズムが変われば、受け取る資源も変わる。そこで、すべてを昔の状態に戻すことだけを目標にしたら、変化そのものを敵にすることになる」
「では、変化をすべて歓迎すればよいのか」
「それも違う。変化には、よいものもあれば、困るものもある。大事なのは、変化を見て、確かめて、必要なら調整することだ」
「……面倒だな」
「政治とは、面倒なものだよ」
「もっと簡単な方法はないのか」
「ある」
「何だ!」
「ひろこさんに、聞くことだ」
議場は、また静かになった。
*
そのころ、ひろこさんはスーパーから帰ってきたところだった。
買い物袋を台所に置き、ひとつずつ中身を取り出す。
野菜。
卵。
豆腐。
それから、以前に買った豆類。
豆類は、まだ棚に残っていた。
ひろこさんは、それを手に取った。
「そろそろ使おうかな」
そう言って、調理台に置いた。
ただし、その日の夕食に使うかどうかは、まだ決めていない。
少し疲れていた。
手の込んだ料理をする気分ではなかった。
冷蔵庫には、すぐに食べられるものもある。
ひろこさんは、しばらく考えてから、簡単な食事を用意した。
豆類は、また棚に戻された。
腸内人民共和国の中央統計局は、これを受けて緊急会議を開こうとした。
しかし、今回は名無しの七号が止めた。
「何をするつもりですか」
「食料資源の流入状況について、検討会を……」
「本人の食事がまだ決まっていないのに?」
「しかし、予測が必要です」
「予測はしてもいい。ただし、予測を本人の意思として扱わないこと。変化が起きたときに、予測が外れたことを隠さないこと。それから、豆類が棚に置かれている状態を、政府への支持とも不支持とも解釈しないこと」
担当者は、困った顔をした。
「では、報告書には何と書けばいいのでしょう」
「見たとおりに書けばいい」
「見たとおり?」
「豆類は棚にある。まだ食べられていない。それだけです」
担当者は、しばらく考えた。
「……報告書が一行で終わってしまいます」
「事実が一行なら、一行でいいんです」
七号は、記録帳を閉じた。
それは、腸内人民共和国の官僚制度にとって、革命的な発言だった。
報告書は、長ければ長いほど立派だと考えられてきた。
しかし、長い報告書が、短い事実を覆い隠すこともある。
七号は、そのことを知っていた。
*
夕方、最終確認大会議は再開された。
「本日の会議では、いくつかの方針が確認された」
議長菌が読み上げた。
「第一に、本人の選択を尊重すること。第二に、記録と実態を区別すること。第三に、改革の実施と問題の解決を区別すること。第四に、政府の説明と本人の意思を区別すること」
議長は、そこで一度、息をついた。
「第五に、これらの方針について、今後も検討を続けること」
「結局、検討は続くのか!」
ブラウ太郎が叫んだ。
「当然です。今回の会議で、すべての問題が解決したわけではありません」
「それを最初に言ってくれ!」
「なお、会議の成果を確認するため、成果確認会議の開催を提案します」
「やめろ!」
議場に笑いが起きた。
議長菌は、少し不満そうだったが、提案を撤回した。
代わりに、議事録に一文を追加した。
《本会議は、すべての問題を解決したものではない》
それだけのことだった。
けれども、これまでの議事録には、似たような一文はほとんどなかった。
政府は、成果を発表することには熱心だった。
成果がまだ十分でないことを、同じ大きさの文字で発表することには、あまり熱心ではなかったのである。
十三世は、議事録を見つめた。
「……この一文を、広報資料にも載せるのか」
「はい」
「目立たないところに?」
「いえ、成果を説明する段落のすぐ下に」
「……そうか」
十三世は、何か言いたそうにした。
しかし、結局、何も言わなかった。
彼はまだ、自分たちの政権が揺らぐことを恐れていた。
その恐れが、すぐになくなるわけではない。
ただ、恐れを理由に、事実を隠すことはできるだけ減らそうと考え始めていた。
*
会議が終わると、ブラウ太郎は議場の外で、バク長老に尋ねた。
「長老。これで、本当に変わるんでしょうか」
「何がだね」
「この国です。ミツオケラ党は、相変わらず七パーセントの歴史的使命を主張している。議長菌は、まだ何でも手続きにしようとする。十三世は、まだ自分たちに有利な食卓を望んでいる」
「そうだな」
「改革の方針はできました。でも、それが実際に守られるかどうかは、分からない」
「そのとおりだ」
「では、今日の会議には、何の意味があったのでしょう」
バク長老は、しばらく考えた。
「意味があったかどうかは、明日からの行動で分かるのだろう」
「明日ですか」
「明日、都合の悪い記録が出てきたとき、隠さずに報告できるか。明日、ひろこさんが昨日と違うものを食べたとき、失敗だと決めつけずに見ていられるか。明日、誰かが『まだ解決していません』と言ったとき、その声を聞けるか」
長老は、笑った。
「今日の会議で立派なことを言うのは、簡単だ。明日、それを忘れないことのほうが難しい」
ブラウ太郎は、黙って頷いた。
「では、明日も見ていきましょう」
「そうだな」
「記録を取りながら」
「うむ」
「必要なら、改善して」
「うむ」
「ただし、改善状況を確認する委員会は作らずに」
「そこは、特に大事だな」
二人は笑った。
*
夜。
松木ひろ子さんは、台所で夕食の支度をしていた。
今日は、昨日とは少し違うものを食べることにした。
特別な決意があったわけではない。
健康のために、何かを完璧に変えようと思ったわけでもない。
ただ、棚に置いてあった豆類を使ってみようと思った。
ひろこさんは、いつもの料理にそれを加えた。
味を確かめる。
「うん。これでいいかな」
食卓に料理を並べる。
ひろこさんは、椅子に座った。
そして、食べ始めた。
腸内人民共和国では、中央統計局が静かに記録を更新した。
《豆類の摂取を確認》
担当者は、少し考えてから、追記した。
《ただし、今回の選択が今後も継続するかどうかは不明》
さらに、別の欄に記入した。
《本人の選択理由については、政府の推定をもって代替しない》
ミツオケラ十三世は、その記録を読んだ。
「……我が党の政策が、食卓に影響した可能性はないのか」
「可能性は否定できません」
「では、その可能性を成果として発表しては」
「本人の選択理由を確認していません」
「しかし、我々の政策によって、本人が選択しやすい環境が整った可能性は……」
「その点は、今後の検証課題です」
「検証課題か……」
十三世は、深く息を吐いた。
かつての彼なら、ただちに成果を発表させていただろう。
《ミツオケラ党の政策、食卓に変化をもたらす》
そんな見出しをつけて。
そして、明日の食卓が違うものになれば、
《一時的な変動に左右されない、長期的政策の成果》
と発表したに違いない。
どちらに転んでも、自分たちの勝利。
それが、長年の政治手法だった。
しかし、十三世は、今回は報告書を閉じた。
「……まだ、分からないのだな」
「はい」
「分からないなら、分からないと記録しておこう」
担当者は、目を丸くした。
「よろしいのですか」
「よくはない」
十三世は、正直に答えた。
「だが、分からないものを、分かったことにするよりは、ましだろう」
その発言は、すぐに党内で議論を呼んだ。
ミツオケラ党の古参幹部は、十三世が弱気になったと批判した。
改革派は、ようやく一歩進んだと評価した。
ブラウ太郎は、まだ何も決まっていないと指摘した。
バク長老は、お茶を飲んでいた。
名無しの七号は、全員の発言を記録した。
そして、記録の末尾に、こう書いた。
《なお、各発言の評価については、現時点では確定していない》
この国は、まだ完成していなかった。
しかし、完成したふりをすることは、以前より少しだけ難しくなっていた。
*
翌朝。
ひろこさんは、冷蔵庫を開けた。
卵がある。
野菜がある。
豆腐もある。
豆類は、昨日使った分だけ、少し減っていた。
ひろこさんは、冷蔵庫の中を眺めた。
「さて、今日は何にしようかな」
腸内人民共和国の中央統計局は、予測報告書の作成を開始した。
しかし、担当者は、すぐに結論を書かなかった。
昨日と同じものを食べるかもしれない。
違うものを食べるかもしれない。
食事の時間がずれるかもしれない。
予定していたものを食べられない日もあるかもしれない。
それでも、ひろこさんの暮らしは続いていく。
その暮らしのすべてを、腸内の誰かが思いどおりに決めることはできない。
ミツオケラ党は、これからも政権を維持しようとするだろう。
ブラウ太郎は、これからも反論するだろう。
バク長老は、これからもお茶を飲みながら、皆が見落としたことを指摘するだろう。
議長菌は、これからも議事進行を気にするだろう。
名無しの七号は、これからも記録を残すだろう。
そして、ときには、また同じ間違いを繰り返すかもしれない。
大切なのは、間違いが一度も起きないことではなかった。
間違いが起きたとき、それを隠さずに認められること。
誰かの声を、都合のよい数字に置き換えないこと。
本人の選択を、勝手に自分たちの手柄にしないこと。
そして、まだ解決していない問題を、解決したことにしないこと。
それらは、壮大な革命ではなかった。
立派な記念碑が建つような出来事でもなかった。
ただ、日々の食卓と、日々の記録と、日々の判断の中で、何度も確かめなければならないことだった。
ひろこさんは、冷蔵庫から卵を取り出した。
それから、少し考えて、野菜も取り出した。
今日の食事は、それで決まりかもしれない。
いや、途中で気が変わるかもしれない。
腸内人民共和国の中央統計局は、報告書の最後に、こう記した。
《本日の食事については、本人の選択を確認するまで、確定しない》
その下に、担当者が小さく付け加えた。
《なお、本人は現在、卵を手にしている》
それは、正確な記録だった。
それ以上でも、それ以下でもなかった。
*
ミツオケラ十三世は、朝の報告書を読み終えると、執務室の窓を開けた。
「……静かだな」
側近が答えた。
「はい。今のところ、大きな変動はありません」
「そうか」
十三世は、少し満足そうに頷いた。
「では、安定していると発表しよう」
「まだ食事が決まっていません」
「……そうだったな」
十三世は、窓の外を眺めた。
「では、発表は保留だ」
「よろしいのですか」
「よくはない」
十三世は言った。
「しかし、ひろこさんがまだ決めていないのに、我々が先に決めるわけにもいかん」
側近は、驚いた顔をした。
それは、ミツオケラ十三世が政権を握って以来、初めて口にした種類の言葉だった。
本人がまだ決めていないことを、本人に代わって決めない。
たったそれだけのことだった。
けれども、腸内人民共和国にとっては、長い歴史の中で、ようやく覚え始めた新しい作法だった。
そして、松木ひろ子さんは、まだ知らない。
自分が冷蔵庫の前で考えているあいだに、腸内でひとつの政治的進歩が起きたことを。
ひろこさんは、卵を置き、野菜を洗い始めた。
水が流れる。
包丁の音がする。
台所に、いつもの朝が戻ってくる。
腸内人民共和国では、誰かが新しい標語を提案していた。
《人民の意思を尊重せよ》
ブラウ太郎は、その標語を見て言った。
「悪くないが、ひとつ付け加えよう」
「何をだ」
十三世が尋ねた。
ブラウ太郎は、標語の下に、小さく一文を書いた。
《ただし、人民が何を望んでいるかは、人民に聞くこと》
バク長老は、それを読んで頷いた。
「うむ。ようやく、当たり前のことを書けたな」
名無しの七号は、その標語を記録した。
議長菌は、正式な掲示手続きを確認した。
ミツオケラ十三世は、標語の文字が少し小さいことを気にした。
そして、ひろこさんは、朝食を作り終えた。
政治は、まだ続く。
腸内の勢力争いも、まだ続く。
食卓も、明日になれば、また変わるかもしれない。
それでも。
ひろこさんの選択を、ひろこさん自身のものとして残すこと。
その当たり前のことを、忘れないようにすること。
腸内人民共和国は、ようやくその第一歩を踏み出した。
その日の夕方、中央広報部は、改革の成果を発表した。
見出しは、こうだった。
《政府、本人の選択を尊重する方針を確認》
その下に、名無しの七号が、訂正を求めた。
《政府が確認したのは方針であり、本人の選択そのものではありません》
広報部は、少し考えた。
そして、訂正を受け入れた。
見出しは、次のように修正された。
《政府、本人の選択を尊重する方針を確認。本人の選択は、本人に確認へ》
ブラウ太郎は、その見出しを見て、腹を抱えて笑った。
「まだ日本語がぎこちない!」
議場にも、笑いが広がった。
ミツオケラ十三世も、とうとう笑った。
完璧な制度は、できなかった。
完璧な政治家も、現れなかった。
完璧な食生活も、存在しなかった。
ただ、少しだけ、誰かの話を聞く余地ができた。
少しだけ、間違いを訂正する余地ができた。
少しだけ、分からないことを分からないままにしておく余地ができた。
その余地が、明日も残っているかどうか。
それは、明日にならなければ分からない。
だからこそ、記録を残す。
だからこそ、話を聞く。
だからこそ、決めつけない。
そして、何よりも。
腸内人民共和国のすべての会議が終わったあとも、松木ひろ子さんには、夕食を決める権利が残されていた。
それは、政府の成果ではない。
改革の実施率にも含まれない。
誰かの支持率を上げるための数字でもない。
ひろこさん自身の暮らしだった。
――人民は、まだ夕食を決めていない。
だから、物語も、ここでひとまず幕を閉じる。
明日の食卓は、明日のひろこさんが決める。
腸内人民共和国は、それを勝手に決めない。
少なくとも、今夜は。
そして、今夜の議事録には、最後にこう記された。
《本日の会議は終了した。なお、問題がすべて解決したことを意味するものではない》
その一文を読んで、バク長老は、静かにお茶を飲んだ。
「うむ。今日は、これでよかろう」
腸内人民共和国の夜は、更けていった。




