第三話 反対派も党の一部
腸内共和国に、野党が誕生した。
共和国の歴史において、画期的な出来事であった。
いや、正確に言えば、野党という名称を持つ組織が誕生した。
その違いについて、中央委員会は特に説明しなかった。
新しい組織の名称は、「人民刷新協議会」。
略称は「人新会」。
名称を決める会議では、「人民改革協議会」「人民発展協議会」「人民未来協議会」など、いくつもの候補が出された。
最終的に「人民刷新協議会」が選ばれた理由について、公式発表は次のように説明している。
――共和国の伝統を尊重しつつ、必要な改善を進める姿勢を最もよく表現しているため。
非公式の会議記録には、もう少し率直な理由が残っていた。
――「改革」という言葉は、現在の指導体制に問題があると誤解されるおそれがある。「未来」は意味が広すぎる。「刷新」であれば、新しくなったような印象を与えながら、何を変えるかについては明言せずに済む。
この記録は、後日、非公式記録としての保存が不適切であると判断され、公式記録から削除された。
もっとも、削除された記録が存在したという事実も、同時に削除された。
*
人民刷新協議会の発足式は、中央広場で盛大に行われた。
壇上には、ミツオケラ十三世と、協議会の代表に選ばれた菌が並んでいた。
代表の名は、コウシン太郎。
かつて中央委員会の政策研究部に所属し、現在は人民刷新協議会の初代代表を務めている。
彼は灰色の礼服を着て、胸には新しい組織の徽章をつけていた。
徽章には、二本の線が描かれていた。
一本は赤色。
もう一本は、少し薄い赤色だった。
デザイン担当者は「対話と調和を象徴している」と説明した。
記者が尋ねた。
「なぜ、二本とも赤いのですか?」
担当者は笑顔で答えた。
「共和国の伝統を尊重しているからです」
「では、二本の線の違いは?」
「多様性を表しています」
「同じ赤色に見えますが」
「多様性は、必ずしも外見の違いによって表現されるものではありません」
記者は、それ以上質問しなかった。
発足式が始まると、ミツオケラ十三世が演壇に立った。
「人民の皆さん。本日、共和国に新しい時代が訪れました」
拍手が起こった。
「我々は、人民の声に耳を傾けてまいりました。発展と安定に関する多くの意見を受け取り、制度を改善してまいりました。そして今、さらに一歩前進することを決定したのであります」
ミツオケラ十三世は、コウシン太郎に目を向けた。
「人民刷新協議会は、共和国の発展に新たな視点をもたらす存在であります」
コウシン太郎は、深く頭を下げた。
「我々は、共和国の政策を検証し、必要な改善を提案し、人民の期待に応えてまいります」
拍手が大きくなった。
「ただし」と、ミツオケラ十三世は続けた。
会場が静まった。
「改善とは、否定することではありません。検証とは、疑うことだけではありません。異なる意見を持つことは大切ですが、その違いを通じて、我々はより高い一致へと向かわなければなりません」
コウシン太郎は、うなずいた。
それは、事前の打ち合わせで確認された表現だった。
反対することはできる。
ただし、最終的には一致しなければならない。
それが、人民刷新協議会の基本方針であった。
発足式の最後に、コウシン太郎は宣言した。
「我々は、共和国のために、必要な意見を述べます!」
ミツオケラ十三世が、彼の手を握った。
その瞬間、国家放送局のカメラが、二人の笑顔を大きく映し出した。
翌日の新聞の見出しは、こうなった。
『建設的な緊張、歴史的な握手』
共和国は、ついに反対派を手に入れた。
*
発足式から一週間後。
人民刷新協議会の事務所では、最初の政策検討会議が開かれていた。
壁には、組織の基本方針が掲げられている。
第一条。共和国の安定を尊重する。
第二条。中央委員会との建設的な対話を重視する。
第三条。必要な改善を提案する。
第四条。提案にあたっては、共和国の基本方針との整合性を確認する。
第五条。意見の相違が生じた場合は、対話を通じて一致点を見いだす。
コウシン太郎は、会議の冒頭で言った。
「諸君。我々は、単に中央委員会を批判するために存在しているのではない」
集まった委員たちがうなずいた。
「我々は、共和国をよりよくするために存在しているのだ」
再び、うなずきが起こった。
「そのためには、必要なときに、必要な意見を述べなければならない」
若い委員が手を挙げた。
「代表。具体的には、どのような意見を述べるべきでしょうか」
コウシン太郎は、用意していた資料を開いた。
「まず、食物繊維政策について、改善を提案しようと思う」
「食物繊維政策ですか」
「そうだ。現行の政策は、全体として適切に進められている。しかし、地域ごとの環境差を考慮する余地がある」
別の委員が言った。
「つまり、現行政策を支持しつつ、運用の改善を求めるのですね」
「そのとおりだ」
「それは、反対意見と呼べるのでしょうか」
コウシン太郎は、少しだけ考えた。
「反対意見とは、必ずしも反対することだけを意味しない」
「では、何を意味するのですか」
「現状に対して、別の視点を提供することだ」
「別の視点とは?」
「現状が正しいという前提を維持しながら、よりよい実施方法を探る視点だ」
委員たちは、資料を見つめた。
誰も、反対とは何かについて、明確な答えを持っていなかった。
しかし、会議は順調に進んだ。
なぜなら、全員が、何に反対すべきかについては迷っていても、何に反対してはいけないかについては、よく理解していたからである。
*
数日後、ブラウ太郎は、人民刷新協議会の事務所を訪れた。
コウシン太郎とは、以前から面識があった。
ブラウ太郎は、彼が中央委員会にいた頃、何度か政策説明会で話を聞いていた。
当時のコウシン太郎は、議論が巧みな菌として知られていた。
質問を受ければ、質問の前提を整理する。
前提が不明確であれば、前提の確認を求める。
確認が済めば、質問の範囲を限定する。
そして、限定された質問に、正確に答える。
その結果、質問者が本当に聞きたかったことが、いつの間にか議論の外へ出てしまうことがあった。
もっとも、本人に悪意があったわけではない。
彼は、混乱を避けるためには議論を整理する必要があると、心から信じていた。
ブラウ太郎が事務所に入ると、コウシン太郎は笑顔で迎えた。
「これはブラウ太郎君。よく来てくれた」
「お久しぶりです」
「どうだね、最近の共和国は」
「相変わらず、安定していますね」
「そうだろう。安定は大切だ」
「ええ。ただ、安定していることと、問題がないことは、同じではないと思いますが」
コウシン太郎は、ゆっくりとうなずいた。
「そのとおりだ。だからこそ、我々のような組織が必要なのだ」
ブラウ太郎は、彼の顔を見た。
「では、ひとつ聞いてもいいですか」
「もちろん」
「あなたたちは、何に反対しているんですか?」
コウシン太郎は、すぐには答えなかった。
窓の外では、共和国の宣伝車が通り過ぎていた。
スピーカーから、明るい声が流れている。
『人民刷新協議会の発足により、共和国の意見の多様性は、さらに豊かなものとなりました』
コウシン太郎は、机の上の資料を整えた。
「我々は、必要な改善が行われていない場合に、改善を求める」
「では、必要な改善が行われていないかどうかは、誰が判断するのですか」
「我々が検証する」
「検証の基準は?」
「共和国の基本方針だ」
「その基本方針に問題がある場合は?」
コウシン太郎は、ブラウ太郎を見た。
「基本方針そのものを否定することと、基本方針の実施方法を改善することは、区別しなければならない」
「なぜですか」
「基本方針がなければ、改善の方向性を定めることができないからだ」
「では、基本方針が間違っていたら?」
コウシン太郎は、静かに息を吐いた。
「ブラウ太郎君。君は、橋を渡るとき、橋そのものが間違っている可能性について、毎回考えるかね」
「橋が崩れかけていたら、考えると思います」
「そうだな。では、橋が崩れていないときは?」
「崩れていない理由を知りたいと思います」
「なるほど」
コウシン太郎は、少し笑った。
「君は、よい質問をする」
「ありがとうございます」
「だが、よい質問であることと、今すぐ答えを出せることは、同じではない」
ブラウ太郎は、うなずいた。
「それは、そうですね」
コウシン太郎は、ほっとしたようだった。
ブラウ太郎は、さらに尋ねた。
「では、答えが出るまで、基本方針を変える可能性は検討しないのですか」
コウシン太郎の笑顔が、ほんの少しだけ消えた。
「基本方針を変更するには、慎重な手続きが必要だ」
「その手続きを決めるのは?」
「中央委員会だ」
「人民刷新協議会ではないのですね」
「我々には、我々の役割がある」
「わかりました」
ブラウ太郎は、椅子から立ち上がった。
「お忙しいところ、ありがとうございました」
コウシン太郎も立ち上がった。
「また来てくれ。意見交換は、いつでも歓迎する」
「はい。次は、ぜひ、意見が一致しない場合についても話を聞かせてください」
コウシン太郎は、笑顔を保った。
「もちろんだ」
ブラウ太郎が部屋を出たあと、コウシン太郎は、しばらく窓の外を眺めていた。
彼は、質問に答えられなかったわけではない。
ただ、答えた瞬間に、自分たちの存在理由そのものが、別の質問へとつながってしまうことを感じていた。
反対派は、何に反対するのか。
その答えを探すことは、中央委員会の決定を検証することにつながる。
決定を検証することは、決定の前提を問うことにつながる。
前提を問うことは、決定する権限そのものを問うことにつながる。
そして、その問いに答えようとすれば、彼自身が長年信じてきた秩序について、考え直さなければならなくなる。
コウシン太郎は、机の上の資料を開いた。
表紙には、こう書かれていた。
『建設的批判の実践に関する基本指針』
彼は、第一項を読み返した。
――批判は、共和国の発展に資するものでなければならない。
彼は、ふと考えた。
共和国の発展に資さない批判とは、何だろう。
その判断を、誰がするのだろう。
そして、批判が共和国の発展に資するかどうかを判断する者が、批判の対象でもある場合、いったい何が起こるのだろう。
彼は、資料を閉じた。
今は、考える時間が必要だった。
*
その週の金曜日。
人民刷新協議会は、最初の政策提言を発表した。
提言の題名は、
『食物繊維政策の一層の充実に向けた運用改善について』
内容は、五項目にまとめられていた。
一、地域ごとの環境差を考慮した運用の検討。
二、人民への説明機会の充実。
三、政策効果の定期的な確認。
四、現場の意見を反映する仕組みの強化。
五、中央委員会との継続的な協議。
記者会見で、コウシン太郎は胸を張った。
「我々は、現行政策の成果を認めたうえで、さらなる改善の可能性を示しました」
記者が質問した。
「この提言は、中央委員会の方針に反対するものですか」
コウシン太郎は、落ち着いた口調で答えた。
「反対という表現は、必ずしも適切ではありません。我々は、方針をよりよく実現するための提案を行っているのです」
「では、中央委員会が提案を受け入れなかった場合は?」
「我々は、その判断を尊重しつつ、必要に応じて再検討を求めます」
「再検討も受け入れられなかった場合は?」
「引き続き、対話を続けてまいります」
「いつまでですか?」
コウシン太郎は、微笑んだ。
「対話が必要である限り、であります」
記者会見は、そこで終わった。
提言は、中央委員会へ提出された。
三日後、中央委員会から回答が届いた。
回答書には、こう記されていた。
『人民刷新協議会の提言について、慎重に検討いたしました』
『提案された五項目はいずれも、共和国の基本方針と整合するものであります』
『現行制度においても、各項目に関する取り組みは進められております』
『したがって、今回の提言については、現行の取り組みを継続することが適当であると判断いたしました』
コウシン太郎は、回答書を読んだ。
五項目の提言は、すべて受け入れられなかった。
しかし、回答書には「拒否」という言葉は一度も使われていなかった。
その日の夕方、国家放送局は報じた。
『人民刷新協議会の提言に対し、中央委員会は建設的な回答を示しました』
『両組織の間で、共和国の発展に関する基本的な認識が共有されていることが確認されました』
共和国は、満足していた。
反対派は意見を述べた。
中央委員会は回答した。
両者は対話した。
そして、何も変わらなかった。
*
数日後、人民刷新協議会の事務所で、委員たちが次の会議を開いていた。
若い委員が、コウシン太郎に尋ねた。
「代表。先日の提言は、ひとつも採用されませんでした」
「そうだな」
「それでも、我々は成果を上げたと発表するのですか」
コウシン太郎は、答えを急がなかった。
「提言が採用されなかったことと、提言に意味がなかったことは、同じではない」
「では、意味があったかどうかは、何で判断するのですか」
「議論が行われたかどうかだ」
「議論によって、何かが変わったのでしょうか」
「認識が深まった」
「どのように?」
コウシン太郎は、資料を見た。
「中央委員会は、我々の提言を検討した」
「はい」
「我々は、中央委員会の回答を受け取った」
「はい」
「その結果、現在の取り組みを継続するという判断が確認された」
「それは、提言を出す前から決まっていたことではないのでしょうか」
会議室が静かになった。
コウシン太郎は、若い委員を見た。
「君は、何を言いたいのだ?」
「我々が提言を出さなくても、中央委員会は同じ判断をしたのではないか、と考えたのです」
「それは、確認できない」
「確認できないのであれば、我々の提言が判断に影響を与えたとも言えないのではありませんか」
コウシン太郎は、しばらく黙っていた。
若い委員は、慌てて付け加えた。
「もちろん、代表を批判しているわけではありません。ただ、我々が何を変えられるのか、知りたいのです」
コウシン太郎は、ゆっくりとうなずいた。
「よい質問だ」
その言葉は、以前、ブラウ太郎にも言ったものだった。
「我々は、何を変えられるのか。それを考えることは、重要だ」
「はい」
「しかし、変えられるものを知るためには、まず変えられないものを理解しなければならない」
「では、変えられないものとは?」
コウシン太郎は、壁に掲げられた基本方針を見た。
「共和国の基本方針だ」
「その方針が、変わる可能性は?」
コウシン太郎は、答えなかった。
会議は、予定の時間を過ぎていた。
議事録には、こう記された。
「次回会議において、提言の実効性について引き続き検討することとした。」
それは、何も決まらなかった会議を、前向きな会議として記録するための、たいへん便利な文章だった。
*
その晩、コウシン太郎は、ひとりで事務所に残っていた。
窓の外では、共和国の夜間放送が流れていた。
『人民の皆さん。共和国には、さまざまな意見が存在しています』
『意見が異なることは、自然なことであります』
『重要なのは、意見の違いを通じて、より高い一致を目指すことであります』
コウシン太郎は、机の引き出しを開けた。
中には、中央委員会に所属していた頃の古い資料が入っていた。
彼は、その一冊を取り出した。
表紙には、若い頃に自分で書いた題名があった。
『政策決定における異論の役割について』
ずいぶん昔の資料だった。
当時の彼は、異論には意味があると信じていた。
異論があるからこそ、前提を見直すことができる。
異論があるからこそ、見落とされていた問題に気づくことができる。
異論があるからこそ、決定する側も、自分の判断を説明しなければならなくなる。
彼は、資料の最後のページを開いた。
そこには、若い頃の自分の字で、こう書かれていた。
「反対意見の価値は、それが正しいかどうかだけで決まるのではない。決定する者が、自分の判断を問い直す機会を生み出すことにもある。」
コウシン太郎は、その一文を長い間見つめていた。
やがて、彼は資料を閉じた。
現在の自分は、反対意見を提出する組織の代表だった。
しかし、中央委員会が判断を問い直す機会を、本当に生み出せているのだろうか。
彼らの提言は、中央委員会の方針を前提としていた。
彼らの批判は、中央委員会が認めた範囲に収まっていた。
彼らの存在そのものが、共和国には多様な意見が存在するという証明に使われていた。
彼は、ゆっくりと目を閉じた。
反対派になれば、自由に反対できると思っていたわけではない。
秩序の中で、できることをする。
そう考えていた。
だが、秩序を守ることと、秩序を変えることの境界は、どこにあるのだろう。
その境界を決めるのは、誰なのだろう。
そして、その境界を越えたとき、自分たちは本当に反対派でいられるのだろうか。
答えは出なかった。
コウシン太郎は、古い資料を引き出しに戻した。
彼は、明日も会議を開くだろう。
政策提言を作り、中央委員会に提出するだろう。
そして、回答を受け取り、次の提言を検討するだろう。
それが、彼に与えられた役割だった。
役割を果たすことは、責任を果たすことだ。
彼は、そう信じていた。
ただ、その役割が、いつから誰によって決められたのかについては、考えないようにしていた。
*
翌朝、ブラウ太郎は、中央広場で名無しの七号に会った。
七号は、掲示板に貼られた新しい新聞記事を読んでいた。
見出しは、こうだった。
『人民刷新協議会、建設的な提言で共和国の発展に貢献』
「どう思う?」
ブラウ太郎が尋ねた。
七号は、記事から目を離さずに答えた。
「何についてですか」
「反対派ができたことだよ」
「反対派ができたのは、よいことだと思います」
「なぜ?」
「意見が違う者が、意見を述べられる場所ができたからです」
「では、その場所で、何でも言えると思う?」
七号は、少し考えた。
「何でも言える場所というのは、難しいと思います」
「どうして?」
「言えることが多い場所と、言ってはいけないことが少ない場所は、必ずしも同じではないからです」
ブラウ太郎は、七号を見た。
「それは、どういう意味だい?」
「たとえば、百種類の意見を言ってよい場所があったとします。でも、言ってはいけない意見が一種類だけで、その一種類が、いちばん重要な問いだったら……」
七号は、そこで言葉を切った。
「その場所は、自由なのでしょうか」
ブラウ太郎は、すぐには答えられなかった。
七号は、新聞記事を指さした。
「この記事には、人民刷新協議会が何を提案したかは書かれています。でも、中央委員会が受け入れなかった提案について、なぜ受け入れなかったのかは、詳しく書かれていません」
「回答書には理由が書いてあったよ」
「はい。現行の取り組みを継続することが適当だと」
「そうだね」
「では、その判断が適当であるかどうかを、誰が検証するのでしょう」
ブラウ太郎は、笑った。
「君は、本当によく質問するね」
「質問をすることは、禁止されていませんから」
「そうだったね」
ふたりは、しばらく笑っていた。
やがて、七号は笑うのをやめた。
「ただ、質問することが禁止されていないからといって、質問の答えが得られるとは限りません」
ブラウ太郎は、うなずいた。
広場の向こうでは、人民刷新協議会の旗が風に揺れていた。
旗の二本の線は、今日も赤色と、少し薄い赤色だった。
*
その日の午後、ミツオケラ十三世は、中央委員会の会議で報告を受けていた。
「人民刷新協議会の活動は、順調に進んでおります」
担当委員が説明した。
「政策提言が行われ、中央委員会が回答し、両組織の間で建設的な対話が続いております」
「よろしい」
「これにより、共和国の意見の多様性が制度的に確保されたものと考えられます」
ミツオケラ十三世は、満足そうにうなずいた。
「重要なのは、意見の違いを恐れないことだ」
「そのとおりであります」
「反対意見があるからこそ、我々は自らの方針を再確認できる」
「はい」
「再確認した結果、方針が正しいとわかれば、それを継続すればよい」
「まったく、そのとおりです」
「もし、方針に改善の余地があれば?」
「必要な改善を行います」
ミツオケラ十三世は、手を組んだ。
「すばらしい。これこそ、成熟した政治である」
会議録には、こう記された。
「中央委員会は、反対意見を尊重する姿勢を改めて確認した。」
その文章は、翌日の新聞にも掲載された。
共和国の人民は、安心した。
反対派が存在する。
反対意見が提出される。
中央委員会は、それを尊重する。
そして、共和国は安定している。
すべてが、うまく回っているように見えた。
ただひとつ、誰も確認しなかったことがあった。
反対派が存在することによって、権力は本当に制限されているのだろうか。
それとも、権力が制限されているように見えるようになっただけなのだろうか。
その問いは、まだ、どの会議の議題にもなっていなかった。




