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異世界ネイルサロン ~艶なき世界に光を~

作者:烏斗
最新エピソード掲載日:2026/06/26
プロローグ
 爪は、その人の生き方が出る。
 新人だった頃、先輩にそう教わった。
 最初はよく分からなかった。
 ただ色を塗って、綺麗に仕上げる仕事だと思っていたからだ。
 けれど、働き続けるうちに分かるようになった。
 手荒れを気にして人前で手を隠す人。
 仕事を頑張りすぎて爪が割れてしまう人。
 結婚式のために勇気を出して来店する人。
 爪を見れば、その人が少しだけ見えてくる。
 だからリナは、この仕事が好きだった。
 派手なアートよりも。
 流行の色よりも。
 誰かが自分の手を好きになって帰っていく瞬間が好きだった。
 その日も、いつもと変わらない一日だった。
 何度も繰り返した日常。
 特別なことなど何もない。
 だからこそ、突然だった。
 気が付くと、知らない部屋にいた。
 見慣れない木の天井。
 聞いたことのない街の音。
 窓の外には石造りの建物が並んでいる。
 夢ではない。
 そう理解するまでに、それほど時間はかからなかった。
 困惑はした。
 不安もあった。
 けれど、生きていくしかない。
 そうして数日が過ぎた頃。
 リナは街を歩きながら、あることに気付く。
 どうしても目が行ってしまうのだ。
 人々の手に。
 働く人の手。
 商人の手。
 職人の手。
 そして貴族らしき人の手。
 誰の爪も、どこか荒れていた。
 気にしていないのか。
 気付いていないのか。
 それとも、どうにもできないのか。
 リナには分からない。
 ただ一つだけ分かることがあった。
 この世界には、まだ誰も知らない価値がある。
 手を整えること。
 爪を守ること。
 そして、自分の手を好きになること。
 それは、この世界では当たり前ではなかった。
 夕暮れの街を眺めながら、リナはそっと自分の指先を見つめる。
 ここには道具もない。
 材料もない。
 知っている技術も、そのままでは使えないだろう。
 それでも。
 もし誰かの手を少しでも良くできるなら。
 そのためにできることを探してみたい。
 そう思った。
 まだこの時のリナは、小さな宿屋で働く一人の少女と出会うことになるとは知らない。
 ――などとは言わない。
 ただ、この世界にもきっといるのだ。
 自分の手を見て、ため息をついている誰かが。
 リナはゆっくりと歩き出した。
 まずは、この世界を知るために。
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