第14話 思った色じゃない
朝早く目が覚めた。
窓から差し込む光を見ると、まだ宿も静かだった。
リナは机へ向かう。
昨日の木の実がそのまま置かれていた。
赤い汁の跡も残っている。
少しだけ乾いていた。
昨日は途中で夕食になってしまった。
今日はもう少し試してみようと思う。
保湿軟膏を作った時の材料を取り出す。
油。
蝋。
乾いた木の実。
どれも見慣れたものになりつつあった。
混ぜてみる。
温めてみる。
冷ましてみる。
単純な作業だ。
だが結果は毎回違う。
しばらくして、小さな容器の中に赤いものができた。
少し嬉しくなる。
見た目だけなら悪くない。
リナは指先に少量取ってみた。
色は付いた。
確かに付いた。
だが。
「……濃すぎる」
思わず呟く。
赤というより茶色に近い。
しかも均一にならない。
場所によって濃さが違う。
乾くとさらに色が変わる。
綺麗とは言い難かった。
リナはしばらく眺める。
失敗だ。
少なくとも自分が思い描いていたものではない。
けれど、不思議と落ち込まなかった。
むしろ少し安心した。
保湿軟膏の時もそうだった。
一度で上手くいく方が珍しい。
むしろ一度で完成したら怖い。
机の上に容器を置く。
窓からの光が当たり、茶色っぽい色が見えた。
求めている赤とは全然違う。
だが色が残ることは分かった。
それだけでも収穫だった。
昼過ぎ。
宿の手伝いを終えた後、リナは市場へ向かった。
もっと材料を見てみたかった。
同じ赤でも木の実は色々ある。
花もある。
染料もある。
知らないものも多い。
市場の端を歩いていると、布を扱う商人の店が目に入った。
赤い布が風に揺れている。
鮮やかな色だった。
思わず立ち止まる。
同じ赤でも、自分が作った色とは全然違う。
「綺麗だな」
自然と声が漏れた。
商人が誇らしげに笑う。
きっと良い染料を使っているのだろう。
リナはしばらく布を眺めていた。
どうすればこんな色になるのだろう。
答えは分からない。
けれど知りたくなった。
宿へ戻る頃には夕方になっていた。
部屋へ入ると、朝の試作品がそのまま置かれている。
改めて見る。
やはり違う。
だが捨てる気にはなれなかった。
失敗した理由は分からない。
それでも何かヒントがある気がする。
リナは容器の蓋を閉めた。
そして紙の端に小さく書き残す。
『色は残る』
短い一文だった。
成功ではない。
けれど前進でもある。
窓の外では夕日が赤く街を照らしていた。
その色を見ながら、リナは次に試す材料のことを考えていた。




