第15話 爪に残るもの
朝食の後、リナは部屋へ戻った。
机の上には昨日の試作品が残っている。
色は付いた。
だが思っていたものではなかった。
それでも、一つだけ分かったことがある。
色そのものを作るだけでは駄目だということだ。
リナは容器を手に取った。
前の世界でもそうだった。
大事なのは色だけではない。
塗りやすさ。
均一さ。
仕上がり。
そして何より爪との相性。
リナは自分の爪を見る。
この世界へ来てから短く切ったままだ。
仕事をするにはその方が都合が良い。
だが爪そのものを見る癖は変わらない。
試作品を少しだけ爪へ乗せてみる。
昨日は指先に付けていた。
今日は爪だ。
塗ってみると、違和感があった。
色が均一にならない。
表面がざらつく。
しかも乾いた後の見た目が良くない。
「違うなあ」
思わず呟く。
赤い。
確かに赤い。
けれど綺麗ではない。
少なくともリナの知っているネイルではなかった。
その後も少しずつ試す。
量を変える。
混ぜ方を変える。
爪へ塗る量も変える。
時間だけが過ぎていく。
昼頃になると、さすがに肩が凝ってきた。
気分転換に外へ出る。
宿の裏庭を通ると、ミアが洗濯物を運んでいた。
「お疲れさまです」
「お疲れ」
ミアは籠を抱えながら近付いてくる。
「また何か作ってるんですか?」
「作ってる」
「今度は何です?」
リナは少し考える。
上手く説明できる気がしなかった。
「爪に使うものかな」
結局そのまま答えた。
ミアは首を傾げる。
「爪に?」
「うん」
それ以上は聞かなかった。
聞いても分からないと思ったのかもしれない。
その代わり、ミアはリナの手を見た。
「赤いですね」
親指の爪に少しだけ色が残っていた。
「うん、そうだね」
「怪我じゃなくて良かったです」
ミアは安心したように笑う。
その反応にリナも笑った。
この世界なら普通そう思う。
爪が赤ければ怪我だ。
わざわざ色を付ける発想などない。
だからこそ難しい。
技術だけではない。
価値そのものが存在しないのだ。
ミアは再び仕事へ戻っていく。
リナはその後ろ姿を見送った。
そして自分の爪を見る。
少しだけ残った赤色。
綺麗とは言えない。
だが昨日よりは進んでいる。
少なくとも今はそう思えた。
部屋へ戻ったリナは、もう一度机へ向かった。
色を作るだけでは足りない。
爪に残り。
綺麗に見える。
そんなものを作らなければならない。
道のりはまだ遠い。
それでも昨日よりは少しだけ近付いた気がしていた。




