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異世界ネイルサロン ~艶なき世界に光を~  作者: 烏斗


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第32話 空の青

 青は見つからなかった。


 花でも。


 果実でも。


 樹液でも。


 何日試しても結果は同じだった。


 机の上には失敗作が並んでいる。


 透明。


 灰色。


 薄紫。


 どれも悪くない。


 けれど青ではない。


 リナが欲しい色ではなかった。


 そんなある日。


 市場で染め物職人の工房を紹介された。


「青ならあの人だ」

 そう言われて訪ねた場所だった。


 工房へ入る。


 独特の匂いがした。


 染料の桶。


 乾燥中の布。


 そして壁一面に掛けられた青い布。


 リナは思わず足を止めた。


「綺麗……」

 本音だった。


 深く。


 落ち着いていて。


 吸い込まれるような青だった。


 職人は満足そうに笑う。


「良い色だろう」


「はい」

 リナも素直に頷いた。


 職人は染料の説明を始める。


 手間。


 時間。


 染め方。


 何度も重ねる工程。


 どれも興味深かった。


 技術としても見事だった。


 だが。


 話を聞きながら、リナは少しずつ気付いていた。


 自分が探している青とは違う。


 帰り道。


 ミアが聞く。


「どうでした?」


「すごかった」

 リナは即答した。


「本当に綺麗だった」


「じゃあ成功じゃないですか」

 ミアは笑う。


 だがリナは首を振った。


「違うんだ」

 宿へ戻る。


 部屋へ入る。


 机の前へ座る。


 そして静かに考える。


 職人の青は美しかった。


 それは間違いない。


 だが。


 あの青は布の青だった。


 落ち着きがある。


 深みがある。


 大人の青だ。


 布にはよく似合う。


 けれど。


 リナが爪へ乗せたい色ではない。


 前の世界で見てきた青。


 夏の空みたいな青。


 思わず目を引く青。


 光を受けて輝く青。


 あれとは違う。


 机の上へ並ぶ失敗作を見る。


 透明。


 灰色。


 紫。


 どれも違う。

 職人の青も違う。


 何も見つかっていない。


 その事実が重かった。


 ミアが部屋へ入ってくる。


「まだ考えてるんですか」


「考えてる」

 リナは苦笑した。


「赤だけでも十分なのに」

 ミアはそう言った。


 責めるつもりはない。


 むしろ励まそうとしている。


 それは分かる。


 赤は完成した。


 艶も完成した。


 お客も来ている。


 誰も青を求めてはいない。


 十分と言われれば十分だった。


 けれど。

 リナは首を横へ振る。


「十分じゃない」

 その言葉だけは迷わなかった。


 ミアは何も言わない。


 ただ静かに聞いていた。


 リナは帳面を開く。


 新しいページをめくる。


 そして一行だけ書いた。


『空の青』


 文字を見つめる。

 それが今の目標だった。


 まだ遠い。


 どこに答えがあるのかも分からない。


 それでも。

 探したい色だった。


 リナは帳面を閉じる。


 窓の外には夕暮れの空が広がっていた。


 青はもう見えている。


 ただ。


 まだ手が届かないだけだった。


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