第31話 青を探す
翌朝。
リナは朝食を終えると、すぐに机へ向かった。
目の前には昨日の青い花。
小刀。
すり鉢。
小瓶。
帳面。
次の目標は決まっている。
青だ。
「始めるんですね」
ミアが覗き込む。
「始めるよ」
リナは頷いた。
「赤ができたんだから次は青」
言葉に迷いはない。
むしろ楽しみだった。
赤を見つけた時もそうだった。
艶を作った時もそうだった。
新しいものを作るのは面白い。
まずは青い花を試した。
花びらをすり潰す。
液体を集める。
色を確認する。
ところが。
「薄いな」
思ったほど色が出ない。
花は綺麗な青だ。
だが取り出した液体はほとんど透明だった。
もう一度試す。
量を増やす。
時間をかける。
結果は大して変わらない。
「駄目ですか?」
「駄目とまでは言わないけど」
リナは首を傾げた。
「思ってたのと違う」
少なくとも欲しい青ではない。
昼頃には花を諦めた。
「もう諦めるんですか?」
ミアが驚く。
リナは苦笑した。
「花で駄目なら別のものを試す」
それだけだった。
目的は花ではない。
青を作ることだ。
市場へ向かう。
青い果実を買う。
青い樹液を探す。
染め物に使う材料も見て回る。
気になるものは片っ端から買った。
宿へ戻る頃には袋がいっぱいになっていた。
午後。
今度は果実を試す。
結果。
紫だった。
「違う」
樹液を試す。
今度は灰色だった。
「違う」
別の材料を試す。
茶色になった。
「もっと違う」
机の上には小瓶が並ぶ。
紫。
灰色。
茶色。
どれも綺麗ではある。
だが青ではない。
リナは腕を組む。
「難しいな」
自然と呟いた。
赤の時はもっと単純だった。
赤い花を使った。
赤が出た。
もちろん苦労はした。
だが方向は見えていた。
今は違う。
どこへ向かえばいいのかすら分からない。
夕方。
帳面を見返す。
試した材料。
結果。
色。
どれも青には届いていない。
ミアが隣から覗く。
「いっぱい増えましたね」
失敗作のことだろう。
リナは苦笑した。
「成果はゼロだけどね」
「でも進んでるんじゃないですか?」
「どうかな」
本音だった。
前進しているのか。
遠回りしているのか。
まだ分からない。
窓の外は夕暮れだった。
机の上には青い花が残っている。
最初に試した花だ。
リナはそれを手に取った。
綺麗な青だった。
だが今日一日かけても、その青は取り出せなかった。
花が駄目。
果実も駄目。
樹液も駄目。
なら。
他に何があるのだろう。
リナは少し考える。
そして帳面の端に書き込んだ。
『植物以外』
その四文字を見つめる。
答えはまだ見えない。
だが。
青はどこかにあるはずだった。
リナは帳面を閉じる。
明日は別の方法を考えよう。
そんなことを思いながら、静かに灯りを消した。




