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異世界ネイルサロン ~艶なき世界に光を~  作者: 烏斗


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第11話 手が語るもの

 昼過ぎ。


 リナは市場の近くにある雑貨屋へ向かっていた。


 宿で使う紐が足りなくなったらしい。


 大した買い物ではないので、使いを頼まれたのだ。


 店で用事を済ませた帰り道。


 広場の近くで人だかりができていた。


 何事かと思い近付く。

 どうやら大道芸人らしい。


 人々を集め、小さな芸を披露している。


 子供たちが楽しそうに笑っていた。


 リナも少し離れた場所から眺める。


 すると見慣れた顔がいた。

 ミアだった。


 買い出しの途中らしい。


 籠を抱えたまま芸を見ている。


 リナに気付くと、小さく手を振った。


 リナも振り返す。


 二人とも芸が終わるまでその場にいた。


 やがて人だかりが散り始める。


「面白かったですね」

 ミアが近付いてきた。


「そうだね」

 芸人は最後に観客から銅貨を受け取っていた。


 礼を言いながら一人一人に頭を下げている。


 その時だった。


「この人の手」

 ミアがぽつりと言った。


「ん?」


「働く人の手なのに、なんだか違いました」

 リナは少し驚く。


 確かに違った。


 芸人の手は傷もある。


 決して綺麗な手ではない。


 だが妙に印象に残る手だった。


「よく見てるね」

 ミアは少し照れたように笑った。


「最近つい見ちゃうんです」

 もう否定もしない。


 それが少し面白かった。


 二人は並んで歩き出す。


 市場へ戻る方向が同じだった。


「何が違うと思った?」

 リナが尋ねる。


 ミアは少し考える。


「分かりません」

 正直な答えだった。


「でも、さっきの人はなんだか格好良く見えました」

 リナはなるほどと思う。


 それなら分かる気がした。


「手だけじゃないんだと思う」


「え?」


「動き方とか」


「動き方?」


「道具の持ち方とか」

 ミアは首を傾げる。


 リナも上手く説明できるわけではない。


 だが前の仕事で何度も感じたことだった。


 同じ爪でも。


 同じ手でも。


 印象は変わる。


「その人らしさ、みたいなものかな」

 リナはそう言った。


 ミアはしばらく考えていた。


「だから手を見ると、その人のことが少し分かるんですかね」


「かもしれない」

 答えながら、リナは少し感心していた。


 その考えに辿り着いたのはミア自身だ。


 教えたわけではない。


 気付いただけだ。


 それが嬉しかった。


 市場の入口が見えてくる。


 人の声が聞こえ始めた。


「私、前は全然気にしたことなかったです」

 ミアが言う。


「何を?」


「手とか爪とか」

 そう言って自分の手を見る。


 少し前なら、そんなこともしなかっただろう。


「でも最近は見ちゃいます」

 リナは笑った。


「悪いことじゃないよ」


「そうですか?」


「うん」

 ミアは安心したように笑う。


 そして市場の中へ駆けていった。


 買い出しの途中だったことを思い出したらしい。


 リナはその後ろ姿を見送りながら空を見上げた。


 爪も手も、ただの体の一部だ。


 けれど少しだけ目を向けると、見えるものが増える。


 この世界にも、そんな人が少しずつ増えていくのかもしれない。


 リナはそう思いながら、ゆっくり宿への道を歩き始めた。


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