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異世界ネイルサロン ~艶なき世界に光を~  作者: 烏斗


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第7話 市場での再会

 市場は今日も賑やかだった。


 野菜を積み上げる店主の声。


 客を呼び込む商人たち。


 荷車の軋む音。


 様々な音が混ざり合い、街に活気を与えている。


 リナは露店を見て回っていた。


 目的は買い物半分、観察半分だ。


 前の世界では見たことのない植物や油も多い。


 まだまだ知らないことばかりだった。


「リナさん!」

 不意に名前を呼ばれる。


 振り向くと、人混みの向こうからミアが手を振っていた。


 両手には買い物袋が下がっている。


「ミア?」


「こんにちは」


 息を弾ませながら駆け寄ってくる。


 どうやら宿の買い出しらしい。


「買い出しかな?」


「はい。野菜とか調味料とか」

 そう言って袋を少し持ち上げた。


 見た目以上に重そうだ。


「大変そうだね」


「これくらい慣れてますから」

 ミアは笑う。


 以前から思っていたが、本当によく働く。

「あ、そうだ」


 ミアが何かを思い出したように言った。


「この前の軟膏、ありがとうございました」


「どういたしまして」


「少し楽になった気がします」

 そう言いながら、ミアは自分の手を見た。


 本当に自然な仕草だった。


 以前ならしなかったはずだ。


「それは良かった」

 リナは素直にそう答えた。


 薬ではない。


 劇的な効果もない。


 それでも役に立ったなら嬉しい。


「最近、気付くと見ちゃうんです」

 ミアは少し恥ずかしそうに笑う。


「手を?」


「はい」

 そう言ってもう一度指先を見る。


 以前よりひび割れは目立たなくなっている。


 もちろん仕事がなくなったわけではない。


 相変わらず忙しい毎日だろう。


 それでも少しだけ変わったらしい。


「変ですか?」


「全然」


 リナは首を振った。


「いいことだと思う」


「そうなんですか?」


「毎日使うものだから」

 ミアは納得したような、していないような顔をする。


 だが嫌そうではなかった。


 しばらく一緒に歩く。


 途中、ミアは野菜を選びながら店主と値段交渉をしていた。


 宿の主人に頼りにされている理由が少し分かった気がした。


「それじゃ戻ります」

 買い物が終わると、ミアは袋を持ち直した。


「気を付けてね」


「はい、ありがとうございます」

 数歩進みかけてから、ミアは振り返る。


「また今度、軟膏のこと教えてください」


「軟膏?」


「どうやって作ったのか気になるので」

 そう言って笑った。


 リナも思わず笑う。


「大したものじゃないよ」


「それでもです」

 ミアは元気よく手を振り、宿の方へ歩いていった。


 人混みの中へ消えていく後ろ姿を見送る。


 その途中で、ミアがまた自分の手を見ているのが見えた。


 ほんの一瞬。


 誰も気付かないような仕草だった。


 だがリナには分かった。


 少し前まで気にも留めていなかったものを、今は気にするようになっている。


 それは大きな変化ではない。


 けれど、確かな変化だった。


 リナは空を見上げる。

 雲一つない青空が広がっていた。


 市場の喧騒の中で、なぜか少しだけ気分が軽くなった。


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