第22話 光を残す
朝。
宿の裏庭で、リナは木の椅子に座っていた。
手には小さな鏡がある。
鏡を見る。
次に爪を見る。
そしてまた鏡を見る。
その繰り返しだった。
赤色は悪くない。
むしろよくできていると思う。
問題は別だった。
光らない。
前の世界のネイルなら、光が当たれば表面が反射する。
指先が自然と目に入る。
けれど今の赤は違う。
色は見える。
だが光を返さない。
「何が違うんだろうな」
リナは呟いた。
材料の問題だろうか。
塗り方だろうか。
それとももっと別の理由だろうか。
考えても答えは出ない。
ただ一つ分かることがある。
艶というものは色とは違う。
赤を作った時とは考え方を変えなければならない。
昼前。
宿の掃除をしていたミアが近付いてくる。
「また爪ですか?」
「また爪」
リナは笑った。
最近はこんなやり取りが増えている。
ミアも慣れたらしい。
「今度は何を考えてるんです?」
「艶」
「つや?」
やはり分からない顔をする。
リナは立ち上がった。
「ちょっと外行こう」
「外?」
二人は宿の前へ出る。
太陽は高い。
雲も少ない。
光が強い日だった。
リナは道端に停められていた荷車を見る。
磨かれた金具が光っている。
「あれ見て」
「はい」
「光ってるでしょ」
「光ってます」
今度は水桶を見る。
表面に光が映っていた。
「これも」
「光ってます」
ミアは頷く。
何を言いたいのかは分からないらしい。
リナは少し考える。
そして自分の爪を見せた。
「これは?」
ミアは見つめる。
「赤いです」
「光ってる?」
ミアは首を傾げた。
「そんなに」
その答えにリナは満足した。
そうなのだ。
色はある。
けれど光が足りない。
言葉にすると単純だった。
問題がはっきりすると少し気分が軽くなる。
部屋へ戻ったリナは、試作品を机へ並べた。
艶を出す。
そのために必要なのは何か。
まだ分からない。
だが目標ははっきりした。
赤を作る時は、色を追いかけていた。
今度は光だ。
リナは紙へ新しく書き加える。
『光を残す』
その文字を見て少し笑った。
なんだかネイルの研究ではなく、別の何かみたいだった。
けれど間違ってはいない。
艶とは、きっとそういうものなのだから。
窓から差し込む光が机を照らす。
試作品の容器が並ぶ。
その中に答えはまだない。
それでもリナは不思議と焦っていなかった。
赤の時もそうだった。
見つかる時は、案外突然見つかる。
今はまだ、その前の時間なのだと思えた。




