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異世界ネイルサロン ~艶なき世界に光を~  作者: 烏斗


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第24話 今できる艶

 翌朝。


 リナは机の上へいくつもの小さな容器を並べていた。


 保湿軟膏の試作品。


 その副産物。


 採用されなかった配合。


 赤を研究していた時には見向きもしなかったものばかりだ。


 昨夜、ようやく方向が見えた。


 艶は色ではない。


 色の上にあるものだ。


 ならば必要なのは、新しい赤ではない。


 赤を守りながら表面を整える何かだった。


 最初の試作は失敗した。


 膜はできた。


 だが乾くと白く濁る。


 赤が台無しになる。


 二つ目も失敗。


 今度はべたつきが強すぎた。


 三つ目は乾燥すると細かなひびが入る。


「うーん……」

 思ったより簡単ではない。


 それでも赤を作っていた頃より気持ちは楽だった。


 向かう方向は見えている。


 後は近付くだけだ。


 昼近く。


 何度目かの調整を終えたリナは、小さな容器を手に取った。


 これまでより油分を減らしている。


 代わりに別の素材を少量加えた。



 保湿軟膏なら不合格。


 だが今回は違う。


 試す価値はある。


 リナは赤を塗った爪へ薄く重ねた。


 乾くのを待つ。


 窓際へ移動する。


 光へかざす。


 しばらく黙った。


「……悪くない」

 それが最初の感想だった。


 完璧ではない。


 前の世界で使っていたものには遠く及ばない。


 透明感も足りない。


 光沢もまだ弱い。


 それでも。


 昨日までとは違った。


 確かに光が乗っている。


 赤が少しだけ深く見える。


 爪へ自然と視線が引き寄せられる。


 リナは何度も角度を変えて確認した。


 そしてようやく立ち上がる。


「ミア」

 食堂へ向かう。


 昼の準備をしていたミアが振り返った。


「どうしたんですか?」


「ちょっと見て」

 リナは手を差し出す。


 ミアは近付く。


 そして爪を見る。


 数秒。


 何も言わない。


 リナは少しだけ緊張した。


「どう?」

 ミアは視線を爪へ向けたまま答える。


「前と違います」

 その言葉にリナは少し笑う。


「どこが?」


「分からないです」

 ミアは困ったように言った。


 だが次の言葉は早かった。


「でもこっちの方が好きです」

 リナは肩の力を抜く。


 説明できなくてもいい。


 違いが伝わった。


 それで十分だった。


 ミアは窓際へ移動する。


 光の下で改めて爪を見る。


「あ」

 小さく声を漏らした。


「光ってます」

 リナも自分の爪を見る。


 確かに光っていた。


 派手ではない。


 目を奪うほどでもない。


 それでも昨日までにはなかった光だった。


「これが艶ですか?」


「たぶん」

 リナはそう答えた。


 本当ならもっと綺麗になる。


 もっと光る。


 もっと自然に見せられる。


 前の世界の記憶がそう告げている。


 だが今はまだそこまで届かない。


 それでも。


 人に使える形にはなった。


 少なくとも昨日より良い。


 それだけは間違いない。


 ミアは何度も爪を見ている。


 その様子を見ながら、リナは静かに息を吐いた。


 赤ができた。

 艶も形になった。


 理想には届かない。


 けれど。


 今の自分にできることとしては十分だった。


 窓から差し込む光が爪へ当たる。


 リナはその光を眺めながら小さく笑った。


「まあ、合格かな」

 職人としては甘い採点かもしれない。


 それでも今日だけは、それで良い気がした。


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