第4話 素材の正解
翌朝。
リナは市場を歩いていた。
昨日作った小さな容器は宿の部屋に置いてある。
ネイルは失敗した。
だが、蜜蝋と油を混ぜたものは思いのほか悪くなかった。
あれがなぜ良かったのか。
それが少し気になっていた。
市場は今日も賑やかだ。
野菜を並べる店。
果物を売る店。
布を扱う店。
その間を縫うように歩きながら、リナは気になる店を覗いていく。
「これは何に使うんですか?」
立ち寄ったのは薬草や油を扱う店だった。
店主は慣れた様子で瓶を持ち上げる。
「こっちは肌荒れに使う人がいるな」
「へえ」
リナは瓶を受け取った。
蓋を開ける。
独特の香りがした。
前の世界で使っていたものとは違う。
それでも、油には油の役割があるらしい。
少し安心した。
世界が違っても、人が考えることは案外似ているのかもしれない。
店を出た後も歩き続ける。
樹脂を売る露店もあった。
透明なもの。
茶色いもの。
琥珀色のもの。
光に透かすと綺麗だった。
「綺麗だな」
思わず呟く。
すると昔読んだ本を思い出した。
ネイルの歴史について書かれた本だった。
昔の人々は今のような材料を持っていない。
それでも植物や鉱物を使い、色や艶を楽しんでいた。
職業柄、そういう話を読むのが好きだった。
「案外、やってることは同じかも」
この世界の人々も材料を探し、試し、工夫している。
違う世界でも、そこは変わらない。
そう思うと少し面白かった。
昼過ぎになり、宿へ戻る。
部屋へ入ると昨日の小さな容器が目に入った。
蓋を開ける。
少量を指先へ取る。
やはり感触は悪くない。
「まずは素材を知ることかな」
リナは容器を閉じた。
前の世界の知識は役に立つ。
だが、それだけでは足りない。
ここにはここで手に入る材料がある。
まずはそれを知ること。
急ぐ必要はない。
昨日の失敗で、それはよく分かった。
窓の外を見る。
街の人々は今日も忙しそうだった。
リナは机へ向かう。
紙を広げる。
買ってきた素材の特徴を書き留め始めた。
今はまだ、小さな一歩でいい。
そう思いながら、ペンを走らせた。




