表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ネイルサロン ~艶なき世界に光を~  作者: 烏斗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/36

第27話 見慣れない色

 昼を少し過ぎた頃だった。


 宿の食堂は比較的静かだった。


 昼食の客もひと段落し、ミアは食器を片付けている。


 一方のリナは、窓際の席を借りて帳面を広げていた。


 最近は研究記録をまとめる時間が増えた。


 保湿軟膏。


 赤。


 艶。


 どの配合で上手くいったか。


 何が失敗だったか。

 忘れないように書き残している。


 元の世界では当たり前だった習慣だ。


 そんな時だった。


 馬車の止まる音が聞こえた。


 何気なく窓の外を見る。


 立派な馬車だった。

 派手ではない。

 だが上質だと分かる。


 ほどなくして若い女性が宿へ入ってきた。


 年齢はミアと同じくらいだろうか。


 服装は落ち着いている。


 しかし布も仕立ても良い。


 自然と目を引く雰囲気があった。


(貴族かな)

 リナはそう思った。


 それだけだった。


 宿には時々そういう客も来る。


 珍しいことではない。


 女性は席へ座る。


 ミアが注文を聞きに向かった。


 その時だった。


「その手」

 女性が言った。


 ミアは少し驚く。


「手ですか?」


「爪です」

 女性の視線はミアの指先へ向いていた。


 最近よくある反応だった。


 ミアは小さく笑う。


「これですか?」


「綺麗ですね」

 女性は素直に言った。


 その言葉には興味が滲んでいる。


 ミアは慣れたように答えた。


「ありがとうございます」

 女性はしばらく爪を見ていた。


 色だけではない。


 光の当たり方まで見ている。


 それが少し珍しかった。


「自分で?」


「いいえ」

 ミアは首を振る。


「こちらの人です」

 そう言って窓際を指した。


 女性の視線が初めてリナへ向く。


 帳面を閉じたリナは軽く会釈した。


 女性も会釈を返す。


 それだけだった。


 だが食事の間も、時々こちらを見ている気がした。


 やがて食事を終え、会計の時間になる。


 女性は帰るかと思った。


 だがそのままリナの席へ近付いてきた。


「少しお話してもいいですか?」

 リナは顔を上げる。


「どうぞ」

 女性は少し安心したように笑った。


「私はエレナといいます」

 落ち着いた声だった。


 リナも名乗る。


「リナです」


 短い挨拶。


 それだけのはずだった。


 だがエレナはすぐに本題へ入った。


「ミアさんの爪、とても綺麗でした」

 リナは少し照れる。


 まだ褒められることには慣れていない。


「ありがとうございます」


「この街では見たことがありません」

 それは事実だった。


 だからこそ目立つ。


 だからこそ興味を持たれる。


 エレナは少し考え込む。


 そして言った。


「また来てもいいですか?」

 リナは思わず笑った。


「宿ですから」

 エレナも笑う。


 その表情は年相応の少女らしかった。


 やがて馬車が去っていく。


 ミアは窓から見送った。


「綺麗な人でしたね」


「そうだね」

 リナも頷く。


 貴族なのだろう。


 たぶん。


 それ以上の感想はなかった。


 けれど。


 馬車の中でエレナは何度もミアの指先を思い出していた。


 見慣れない赤。


 見慣れない艶。


 そして、それを作ったという不思議な女性。


 その興味は、まだ始まったばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ