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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

大剣の冒険者

作者:beck2026
最新エピソード掲載日:2026/06/16
夕暮れ時のギルドは、いつもと変わらない喧騒に包まれていた。
 
酒杯を掲げる者、傷を労い合う者、明日の依頼を品定めする者。
 
その誰もが、時折、壁際に立てかけられた「それ」に視線を向ける。
 
身の丈を超えるほどに巨大な、鉄の塊。
 
幾多の戦場を駆け抜け、無数の魔物の血を吸ってきた、鈍い銀色の大剣。
 
かつてその大剣を軽々と振るい、誰よりも豪快に笑っていた男の姿は、もうそこにはない。
 
「……本当に、行っちまったんだな」
 
ひとりの若い冒険者が、ぽつりと呟いた。
 
「最前線の盾と矛になってやる」
 
そう言って笑い、常に誰かの前に立ち続けた男。
 
彼が最後に残した大きな背中は、ギルドの誰もが忘れられない、英雄の姿そのものだった。
 
男は言っていた。
 
圧倒的な力があれば、大抵の窮地は叩き潰せる、と。
 
だが、彼が本当に遺したのは、その力だけではない。
 
彼に命を救われ、その背中を追い続けた、多くの者たちの「心」だった。
 
バタン、とギルドの重い扉が開く。
 
入ってきたのは、かつてはひょろっとしていて、戦場で生きていけるか心配されていた若者だ。
 
いまや、その目には確かな覚悟の光が宿り、体つきも一回り逞しくなっている。
 
若者は、まっすぐに壁際の大剣へと歩み寄った。
 
その柄に、そっと手をかける。
 
並の人間では、持ち上げることすら不可能な重量。
 
じわりと、手のひらに鉄の冷たさと、これまでの歴史の重みが伝わってくる。
 
「……次は、俺が誰かの盾になる番だ」
 
若者は深く息を吸い、全身の筋力を込めて、その大剣を引き抜いた。
 
ずしりと響く重圧を受け止め、しっかりと足を踏みしめる。
 
ギルドの喧騒が、一瞬だけ静まり返った。
 
誰もが、新しい「大剣の冒険者」の誕生を、言葉もなく見守っている。
 
若者は大剣を背中に背負うと、受付の奥で微笑むスタッフに、小さく頷いて見せた。
 
そして、夕日が差し込む扉の向こうへと、力強く歩き出す。
 
かつての男がそうしたように、豪快で、どこまでもまっすぐな足跡を、新しく刻み込むために。
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