第十二章:夜明けの地獄と、見えてきた輪郭
翌朝。
東の空がようやく白み始めた頃、レイは眠い目を擦りながらギルドの裏手へと向かった。
まだ人通りのない薄暗い広場には、すでに一人の影があった。
端正な佇まいで、細剣の素振りを繰り返しているレオンだ。
その無駄のない鋭い軌跡は、風を割る音すらほとんど立てない。
「……遅いぞ、レイ」
「すみません……。あの、本当に教えてもらえるなんて……」
「勘違いするなと言ったはずだ。
私はただ、この街にこれ以上、無様な死体を増やしたくないだけだ」
レオンは素振りを止めると、地面に置かれたレイの大剣を顎で指した。
「まずはそれを構えてみろ。昨日のように自重で振り回すのではない。
己の足、腰、背中の芯で、その重量を『支え、制御する』んだ」
言われた通り、レイは大剣を構える。
しかし、昨日までの疲労が残る筋肉がすぐに悲鳴を上げ、刃先がじりじりと下がっていく。
「腰が浮いている! それでは一撃を放った瞬間に体制が崩れる!」
「くっ……!」
「大剣の強みはその圧倒的な破壊力だが、隙が大きい。
だからこそ、構えの段階で一ミリの無駄もあってはならない。
大地の力を、そのまま刃の先へ伝えるイメージを持て!」
レオンの指導は、容赦がなかった。
少しでも姿勢が崩れれば、容赦なくその細剣の柄で突かれ、修正される。
何度も大剣の重さに引っ張られ、地面に這いつくばった。
手のひらの傷が痛み、全身から滝のような汗が流れ落ちる。
(重い、痛い、動かない……っ)
頭の中が真っ白になりかける。
しかし、レイの心は折れなかった。
レオンの言葉を一つひとつ咀嚼し、がむしゃらに姿勢を正していく。
足の裏でしっかりと地面を掴み、下腹部に力を込め、大剣を身体の一部として意識する。
数時間が経過し、太陽が完全に昇りきった頃。
「――そこだ、止めろ」
レオンの声に、レイはピタリと動きを止めた。
全身が激しく震えている。しかし、大剣の刃先は、地面からわずか数寸のところでカチリと静止していた。
「……ほう」
レオンの目が、わずかに見開かれる。
それは、ほんの一瞬のことだったかもしれない。
だが、ただ武器に引きずられていた少年が、確かにその鉄塊を「御した」瞬間だった。
「今日のところはそこまでにしてやる。
明日からは、その構えのまま百回、素振りを追加だ」
「……はい! ありがとうございました!」
レイは地面に倒れ込みながらも、確かに自分の身体の中に、新しく確かな「力の輪郭」が芽生え始めているのを感じていた。




