第十三章:鉄塊、わずかに軽くなりて
それからの日々は、レイにとってまさに地獄の連続だった。
毎朝、夜が明けるよりも前に起き出し、ギルドの裏手で泥にまみれる。
レオンの容赦のない叱咤が飛び交う中、レイは何度も、何度も大剣を振り下ろした。
手のひらのマメは潰れては固まり、今や岩のように硬くなっている。
全身の筋肉が一度破壊され、より強靭なものへと作り替えられていくような、激しい痛みが毎日続いた。
「……九十八、九十九……百!」
――ブンッ!!
鋭い風切り音が、朝の澄んだ空気を引き裂いた。
大剣の刃が、レイの狙った位置でピタリと止まる。
あの日、持ち上げるだけで精一杯だった鉄の塊が、今は確かに彼の意志に従っていた。
「ふん……少しは様になってきたな」
壁に背を預け、腕を組んで見ていたレオンが、小さく鼻で笑う。
その表情には、かつてレイを蔑んでいたような冷たさは、もう微塵も残っていなかった。
「レオンさん! 今の、どうでしたか!?」
レイは荒い息を吐きながら、大剣を背中の鞘へと収めた。
ずしりとした重量は相変わらずだが、不思議と、最初のような「引きずられる感覚」は消えている。
「軸はブレていない。だが、まだ無駄な力が入っている。
大剣の重さを『利用』しろと言ったはずだ。
お前が力を入れるのは、刃が標的に当たる、その一瞬だけでいい」
レオンは歩み寄り、レイの肩を軽く叩いた。
「まあ、基礎の基礎はできたと言っていいだろう。
そろそろ、次の段階へ進む頃合いだ」
「次の、段階……?」
レイが小首を傾げると、レオンは懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
そこには、ギルドの公式な刻印が押された、新しい依頼書が踊っていた。
「ただの害獣駆除ではない。
街の北にある古い廃鉱山に、厄介な魔物が住み着いたらしい。
実戦の中でしか磨けないものがある。……行くぞ、レイ」
「はいっ!」
レイは力強く頷いた。
ただの重荷だった鉄塊は、今や彼の身体の一部となりつつある。
若き大剣の冒険者が、いよいよ本物の深淵へと、その一歩を踏み出そうとしていた。




