第十四章:廃鉱山の暗雲
街の北方にそびえる連峰の麓、かつて栄華を極めたという古い廃鉱山は、不気味な沈黙を保っていた。
太陽の光を拒絶するように口を開ける漆黒の坑道。
その入り口に立つと、内部から湿った冷気と、鉄の錆びたような嫌な臭いが風に乗って漂ってくる。
「ここから先は日光が届かない。足元に注意しろ、レイ」
レオンが腰の細剣に手をかけながら、低い声で告げる。
その横顔には、これまでの訓練の時には見せなかった、実戦の冷徹な緊張感が漂っていた。
「はい。……いつでもいけます」
レイは背中の大剣の柄に触れ、深く息を吸い込んだ。
あの日、ただ無謀に鉄の塊を引きずっていた少年はもういない。
今やその手は、大剣の重みを確実に我が物として捉えていた。
二人は静かに、闇の広がる坑道へと足を踏み入れた。
足元でパキリ、と枯れ枝や鉱石の破片が砕ける音が、妙に大きく響く。
壁に設置された古いランタンに火を灯しながら、暗路をじりじりと進んでいく。
「……レオンさん、ここにはどんな魔物が?」
「ギルドの報告では、地潜りの甲虫だ。
動きはそれほど速くないが、奴らの外殻は並の剣では傷一つつけられないほどに硬い。
私の細剣のような点での突きでは、隙間を正確に狙わねば致命傷は与えられないが……」
レオンは一度言葉を切り、レイの背中を見つめた。
「お前のその鉄塊なら、話は別だ。
その圧倒的な質量があれば、殻ごと中身を叩き潰せる。
お前がこの依頼に選ばれた理由を、忘れるなよ」
「……! はい!」
自分の持つ武器の意味。
ただ重いだけだと思っていた大剣が、これほどまでに頼もしい可能性を秘めていることに、レイの胸が熱くなる。
その時だった。
――カサカサカサ、と不快な複数の足音が、前方の闇の奥から急速に近づいてきた。
ランタンの淡い光が照らし出したのは、大人が両手を広げたほどもある、禍々しい漆黒の巨大甲虫。
その鋭い角が、獲物を見つけた興奮で怪しく震えていた。




