第四章:不格好な一撃
「――あ」
視界が、跳躍した大ネズミの姿で埋まる。
目の前に迫る鋭い牙。
引き抜くだけで精一杯だった大剣は、まだ完全に構えきれていない。
受け流すことも、避けることも間に合わない。
(死ぬ――!?)
心臓が跳ね上がり、全身の血が逆流するような感覚の中、レイの身体が本能的に動いた。
まともな剣技ではない。
ただ、大剣の重みに振り回されるようにして、身体ごと前方へ倒れ込んだのだ。
「おおおおおっ!」
無様な叫び声と共に、半ば自重で落下させた鉄の塊。
大剣の平――刃ではなく、分厚い鉄の側面が、空中で大ネズミの胴体をまともに捉えた。
――ドガッ!!
鈍い破壊音が響き渡る。
大剣の圧倒的な重量は、ただそれだけで凄まじい衝撃を生み出していた。
大ネズミは悲鳴を上げる余裕すらなく、横一文字に吹き飛び、路地の石壁に激突して動かなくなった。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
静まり返った路地で、レイは地面に両膝をついた。
大剣の柄を握る両手は、衝撃で激しく痺れ、自分の意志では開かない。
全身から冷や汗が噴き出し、心臓が耳の奥でうるさいほどに脈打っている。
「倒し、た……?」
動かなくなった魔物を見つめ、レイは震える手でようやく大剣を杖代わりに立ち上がった。
技もなければ、狙いも定まっていない、あまりにも不格好な一撃。
しかし、確かにその「重み」だけで、敵を圧殺した。
「これが、大剣の……力……」
痺れる手のひらで見つめる、鈍い銀色の刃。
恐怖の後にやってきたのは、得体の知れない高揚感だった。
この鉄塊を完全に自分のものにできたなら、どんな景色が見えるのだろうか。
レイは痛む身体を引きずりながら、最初の手応えを噛み締めるように、大ネズミの死体を回収し始めた。




