第三十七章:砂塵の荒野へ
ルミナスの東門を出てから二日。
周囲の景色は、緑豊かな渓谷から、乾いた赤茶色の岩肌と砂が支配する世界へと変貌を遂げていた。
吹き抜ける風が、細かな砂粒を運んで肌を打つ。
レイは薄手の布を首元に巻き、視界を遮る砂煙の向こうをじっと見据えていた。
「ここから先が『砂塵の荒野』だ。視界が悪い上に、足場が砂で流れる。
大剣のような重量級の武器は、いつも以上に踏み込みに気をつけろよ」
アレンが声を張り上げ、砂風の中で注意を促す。
背後では、ボルグが巨大な盾を風除けにするようにしながら、一歩一歩、確実に大地の感触を確かめるように歩いていた。
レイは自身の足元に視線を落とした。
確かに、一歩踏み出すたびに靴が砂に沈み、わずかにバランスが崩れそうになる。
これまでの岩場や坑道のような、強固な足場はここにはない。
軸を一本に通そうとしても、その土台となる大地自体が動いてしまうのだ。
(足先だけで立とうとしたらダメだ。腰、いや……体幹全体で重さを支えないと)
レイは歩きながら、大剣の重みと自らの重心のバランスを細かく調整していった。
砂に足を取られる感覚を、逆に利用する。
沈むなら沈むなりに、その瞬間の大地の反発を捉えるように、身体の使い方を変えていく。
――ズゥゥゥン……。
不意に、地響きのような重苦しい振動が、砂を通じてレイの足の裏に伝わってきた。
「……来るぞ!」
ボルグが鋭く叫び、盾をがちりと構える。
前方の砂煙が激しく渦巻き、そこから巨大な影が姿を現した。
それは、全身が硬質な岩のような鱗で覆われた、体長四メートルを超える巨大なトカゲ――「岩甲の砂蜥蜴」だった。
本来ならさらに東の奥地に生息するはずの凶暴な魔物が、アレンの噂通り、完全に交易路の近くまで南下してきている。
砂蜥蜴は、太い尾を激しく地面に叩きつけ、凄まじい地響きを立てながら、真っ直ぐにレイたちめがけて突進を開始した。
その巨体が生み出す風圧が、周囲の砂塵をさらに激しく巻き上げる。
「レイ、正面は任せた! 左右のフォローは俺たちがやる!」
アレンの信頼に満ちた声が響く。
「はいっ!」
レイは砂に足を沈めながら、大剣の柄をがっしりと握り締めた。
不安定な足場、吹き荒れる砂嵐、そして迫り来る圧倒的な質量。
しかし、少年の瞳には、それらの逆境をすべて噛み砕くような、静かで熱い闘志が宿っていた。
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