第二十七章:濃霧の合流と、新たな影
一匹目の「霧隠れの鎌虫」を仕留めたことで、レイの感覚は研ぎ澄まされていた。
周囲を包む白霧は相変わらず濃かったが、肌に触れる風の動きや、岩肌に反響するかすかな音の捉え方が、さっきまでとはまるで違っていた。
(力に頼るだけじゃなく、大剣をどこに『置く』か……)
自らの成長を噛み締めながら、目的の苔を採取するために歩みを進める。
しかし、渓谷のさらに奥へと足を踏み入れたその時、霧の向こうから金属の激しいぶつかり合いと、複数の人間の怒号が聞こえてきた。
「くそっ、またかわされた!?」
「落ち着け! 奴らは常に死角を狙ってくるぞ!」
ルミナスの冒険者たちの声だ。
それも一人や二人ではない。かなりの混戦になっている様子だった。
レイは大剣をいつでも振るえる位置に保持したまま、音のする方へと慎重に駆け寄った。
視界が開けたわずかな岩場では、数人の冒険者たちが、三匹もの鎌虫に完全に包囲されていた。
彼らの装備は洗練されていたが、手数の多さと変幻自在な動きを誇る魔物を前に、じりじりと防戦一方に追い込まれている。
「チッ……霧のせいで、攻撃の軌道が読めない……!」
前線で盾を構える男の隙を突き、一匹の鎌虫が音もなく上空へと跳躍した。
霧に紛れたその刃が、無防備な男の脳門へと振り下ろされようとする。
「危ないっ!」
レイは大地を強く蹴り、霧の中へと飛び込んだ。
ギルムの荒野で狂犬を叩き落とした時のように、ただがむしゃらに突っ込むのではない。
敵の着地予測地点、そのわずかに手前の空間を見据える。
全身の力を抜き、大剣の自重を乗せて、斜め上方へと刃を滑らせた。
まさに、鎌虫が急降下してくるその軌道上に、巨大な鉄塊を「割り込ませる」ように。
――ドガァァンッ!!
「ギ、チッ!?」
空中での激突音が響き渡る。
完璧に予測された質量の一撃を受け、鎌虫は悲鳴を上げながら真横の岩壁へと激しく吹き飛んでいった。
「な、んだ……今の奴は!?」
危機を脱した冒険者が、驚愕の声を上げる。
霧の中から現れたのは、見慣れない旅装束の少年と、その身の丈を超えるほどに無骨で、巨大な鉄塊だった。




