第二十八章:静かなる共闘
「おい、呆けている暇はないぞ! まだ二匹残っている!」
レイの鋭い声が、呆然とする冒険者たちを現実に引き戻した。
仲間を一撃で叩き落とされたことで、残る二匹の「霧隠れの鎌虫」の複眼が、一斉にレイへと向けられる。
半透明の身体が激しく小刻みに震え、濃霧の中へとその姿を完全に消した。
「気をつけろ、大剣使い! 奴らは一度霧に隠れたら、どこから来るか――」
「右と、真後ろです」
レイは表情一つ変えず、静かに告げた。
肌を撫でる湿った風。その流れが、二箇所から同時に遮られた。
ギルムの荒野でレオンに叩き込まれた徹底的な軸の制御。それが今、この極限の集中状態の中で、レイの五感を恐ろしいほどに研ぎ澄ましていた。
――シュパッ!!
左右からの挟み撃ち。霧を裂く二条の殺気。
しかし、レイの身体に焦りはなかった。
(力を入れるのは、当たるその一瞬だけ……!)
レイはまず、右側から迫る鎌虫の軌道へ向けて、大剣を最短距離で突き出した。
斬るのではない。圧倒的な質量を誇る鉄塊の「先端」を、敵の突進ルートに精密に置き去るのだ。
――グシャッ!
「ギチッ!?」
自ら突っ込む速度のまま、大剣の切っ先に顔面を強打した鎌虫が、たまらず体勢を崩して地面を転がる。
そして、その瞬間に生じた大剣の反動を、レイはそのまま自らの腰の回転へと繋げた。
重さを殺さず、むしろその遠心力を利用して、今度は真後ろの空間へと大剣を全開で薙ぎ払う。
――ドゴォォォンッ!!!
背後から襲いかかろうとしていた二匹目の鎌虫は、防ぐ術もなく大剣の平で真横からひしゃげさせられ、そのまま濃霧の彼方へと消し飛んでいった。
「……嘘だろ……」
ルミナスの冒険者たちが、言葉を失ってその光景を見つめていた。
彼らが手も足も出なかった変幻自在の魔物を、その少年は、まるですべての動きが見えているかのように的確に、そして圧倒的な破壊力でねじ伏せてみせたのだ。
レイは残った一匹にとどめを刺すと、ふぅ、と静かに息を吐き、大剣をゆっくりと背中へ収めた。
「怪我は……ないですか?」
振り返った少年の佇まいには、あの無骨な鉄塊を背負っているとは思えないほどの、洗練された静けさが宿っていた。




