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大剣の冒険者  作者: beck2026


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第六章:不穏な夜の刃研ぎ

夜の帳が下り、街の灯りがひとつ、またひとつと消えていく。

 

レイは安宿の狭い一室で、ただ一人、大剣と向かい合っていた。

 

窓から差し込むかすかな月光が、床に横たえられた鉄の塊を不気味に照らしている。

 

「……くそ、腕が上がらないな」

 

昼間の戦いの代償は大きかった。

 

大剣の重さに耐えかねた両腕の筋肉は、今も激しく痙攣し、熱を持ったように脈打っている。

 

それでも、レイは粗末な布に油を染み込ませ、大剣の刃をゆっくりと拭い始めた。

 

あの細剣の男が言っていた言葉が、頭の奥で何度もリフレインする。

 

――明日には生きていないと思え。

 

ただの脅しではないことは、昼間の大ネズミとの戦いでも十分に理解していた。

 

もし、次に現れる魔物が、あれ以上の俊敏さや狂暴性を持っていたら。

 

今の自分では、一撃を繰り出す前に、その牙に喉笛を噛み千切られるだろう。

 

「だけど……だからって、諦められるかよ」

 

レイは歯を食いしばり、力が入らない指先で、丁寧に、丁寧に鉄の表面を磨いていく。

 

なぜ自分は、これほどまでに無謀な武器を選んだのか。

 

なぜ、この鉄の塊でなければならないのか。

 

磨き続けられた鈍い銀色の刃に、自分の情けないほどに青白い顔が映り込む。

 

その瞳だけが、暗闇の中で妙に鋭くギラついていた。

 

「圧倒的な力があれば、大抵の窮地は叩き潰せる……」

 

かつて風の噂で聞いた、ある高名な冒険者の言葉。

 

その言葉だけが、今のレイの、暗闇を照らす唯一のしるべだった。

 

夜が更けるにつれ、風の音が不穏に窓を叩き始める。

 

街の品格を重んじるというあの細剣の男たちも、明日は獲物を狩りに荒野へ出るのだろう。

 

「……やるしかないんだ」

 

レイは大剣を愛おしそうに抱きかかえるようにして、そのまま冷たい床の上で、深い眠りへと落ちていった。

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