第二十一章:凱旋と、背中を追う者たち
昼下がりの冒険者ギルドは、いつも通りの気怠い熱気に包まれていた。
酒を酌み交わす者、自慢の武器を手入れする者、次の獲物の噂を囁き合う者。
そんな雑多な喧騒の中に、突如として奇妙な静寂が広がっていった。
バタン、と重い扉が開く。
入ってきたのは、泥と魔物の返り血で汚れ、ボロボロになった二人の男だった。
一人は、ギルムの街でも一目置かれる実力者、細剣のレオン。
その自慢の軽鎧は無残にひび割れ、歩く姿もどこか痛々しい。
そして、そのレオンの肩を支えるようにして歩く、もう一人の少年――レイ。
レイの背中には、相変わらず身の丈を超えるほどに巨大な、あの鉄の塊が背負われていた。
しかし、その姿を見た冒険者たちの目に、もはや嘲笑の色は一切なかった。
「おい、あれって……」
「廃鉱山の変異種を、本当に片付けちまったのか?」
ざわめきが波紋のように広がっていく。
レイは周囲の視線に目もくれず、まっすぐに受付のカウンターへと向かった。
背中の大剣がごとりと重苦しい音を立て、彼が差し出したのは、あの変異種の巨大なハサミの一部――討伐の証明部位だった。
受付の年配職員は、その巨大な殻と、レイの傷だらけの両手を交互に見つめ、深く、深く息を吐き出した。
「……見事なものだ、レイ。
まさか本当に、その鉄クズで怪物を叩き潰してくるとはな」
職員の言葉には、最大級の驚きと、確かな敬意が込められていた。
カウンターに置かれたのは、これまでとは比較にならないほどの、ずっしりとした重みを持つ銀貨の袋。
レイはその袋を手に取り、少しだけ微笑んだ。
その笑顔には、かつての頼りなさや焦燥感は消え失せ、数々の死線を潜り抜けた者だけが持つ、静かな自信が宿っていた。
「レオン。お前が新人を連れて行くなんて珍しいと思ったら……
とんでもない怪物を育てちまったみたいだな」
背後から声をかけてきた別のベテラン冒険者に、レオンは不愉快そうに鼻を鳴らした。
「ふん、私は何も育てていない。
この馬鹿が、勝手に重荷を背負って、勝手に強くなっただけだ」
ぶっきらぼうな口調だったが、レオンの目はどこか誇らしげだった。
ギルドの片隅で、若手冒険者たちがレイの背中を見つめている。
かつて誰もが「無謀だ」「身の程知らずだ」と笑った大剣。
しかし今、その鉄の塊は、街の誰もが無視できない、圧倒的な「盾と矛」の輪郭を見せ始めていた。
始まりの街ギルムに、新たな伝説の足跡が、今まさに刻まれようとしていた。




