第二十章:深淵からの生還、そして
暗闇の中に、変異種の巨躯が完全に沈黙して横たわっている。
その岩のような外殻は、レイの一撃によって見る影もなく粉砕されていた。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
レイは地面に突き立てた大剣の柄に、全身の体重を預けていた。
手のひらから滴る血が、鉄の冷たさに触れてじわりと広がっていく。
アドレナリンが切れるにつれ、限界を超えて引き絞った全身の筋肉が、焼けるような激痛を訴え始めていた。
一歩でも動けば、そのまま地面に倒れ込んで意識を失ってしまいそうだった。
しかし、レイは必死に目を見開き、暗がりの奥へと視線を向けた。
「レオン、さん……」
壁際に崩れ落ちていたレオンは、浅い呼吸を繰り返しながら、信じられないものを見る目でレイを見つめていた。
その端正な顔は泥と血にまみれ、誇り高き軽鎧は無残に割れている。
それでも、彼の瞳には確かな生気が残っていた。
「……馬鹿者が。誰が……前に立てと言った……」
レオンは痛みに顔を歪めながらも、ふっと小さく、自嘲気味に笑った。
その声には、いつもの刺すような冷徹さはなく、どこか深く呆れ、そして感嘆したような響きがあった。
「本当に……あの男と同じ、無茶苦茶な一撃を放ちおって……」
「……レオンさんが、大剣の重さを利用しろって、教えてくれたからです」
レイは足の震えを堪えながら、一歩、また一歩とレオンの方へ歩み寄った。
そして、大剣を背中の鞘へと、ずしりとした重みを感じながらゆっくりと収める。
今度は、レイが手を差し伸べる番だった。
傷だらけで、マメの潰れた不格好な右手を、横たわるレオンの前へと差し出す。
レオンはそれを見つめ、少しだけ躊躇うような素振りを見せたが、やがて諦めたように深くため息をついた。
そして、レイの手をしっかりと握り返した。
「……借りが、増えたな」
「いいえ。お互い様、ですから」
ぐっと力を込め、レオンの身体を引き起こす。
肩を貸し合い、二人は互いの体重を支え合いながら、静まり返った廃鉱山の坑道を、ゆっくりと出口に向かって歩き始めた。
暗い闇の先、坑道の入り口からは、眩いばかりの陽の光が差し込んでいた。
ただ無謀に鉄の塊を背負っていた少年は、この深淵の中で、真の「大剣の冒険者」としての第一歩を、確かに踏み出したのだった。




