第十九章:限界を超えた一閃
空間が静止したかのような錯覚。
迫り来る変異種の巨大なハサミが、レイの鼻先をかすめる。
しかし、レイの軸は微塵もブレていなかった。
頭のてっぺんから爪先まで、一本の強固な芯が通っている。
その芯を起点として、天高く掲げられた鉄塊が、自重のすべてを乗せて一気に振り下ろされた。
力を入れるのは、当たるその一瞬――。
――ドガァァァァァンッ!!!
先ほどの甲虫とは比較にならない、天地を震わせるほどの破壊音が坑道内に炸裂した。
レイの大剣は、変異種の脳門を真っ向から捉えていた。
赤黒い、岩のように頑強だった変異種の外殻。
それが、レイの放った圧倒的な質量の前には、ただの脆い土塊に過ぎなかった。
バリバリと音を立てて、外殻が粉々に砕け散る。
衝撃波が坑道の壁を削り、激しい砂塵が周囲を包み込んだ。
「ガ、ァ…………ッ」
変異種は、その巨大なハサミを力なく開いたまま、巨体を激しく痙攣させた。
端正な殻に覆われていた怪物は、その圧倒的な重圧に耐えかねて地響きを立ててその場に崩れ落ち、二度と動かなくなった。
「はぁ、はぁ、はぁ, はぁ……っ!」
静寂が戻った暗闇の中で、レイは大剣を地面に突き立て、かろうじて身体を支えていた。
両腕の筋肉は引き千切れんばかりに熱を持ち、手のひらからは血が滴り落ちている。
全身の気力が底をつき、今にも意識が遠のきそうだった。
しかし、レイは確かに、自分の足で立ち続けていた。
「……やった、のか……?」
崩れ落ちた怪物の巨体を見つめ、レイは震える声で呟いた。
まぎれもない、彼自身の力でもぎ取った、圧倒的な勝利の証だった。




