第十八章:受け継がれる背中
「……はぁ、はぁ……」
静まり返った坑道に、レイの荒い呼吸だけが響く。
正面には、岩のように強固な外殻を持つ赤黒い変異種。
斜め後ろには、壁に寄りかかったまま動けないレオン。
絶望的な状況のはずだった。
しかし、大剣の柄を握るレイの手の震えは、不思議と止まっていた。
「レイ……逃げ、ろ……。
お前では、まだ……っ」
苦しげに血を吐きながら叫ぶレオンの声。
レイはその言葉に、振り返ることなく静かに首を振った。
「レオンさん。僕に、大剣の重さを『利用』しろって言いましたよね」
大剣を正眼に構える。
その姿勢は、毎朝レオンに叩き込まれた、一ミリの無駄もない完璧な軸を保っていた。
「あの伝説の冒険者も……レオンさんも……。
みんな、誰かの前に立って戦ってきたんだ。
今度は、僕が二人の前に立つ番です」
その言葉に、レオンは目を見開いた。
少年が背負う巨大な鉄塊の影が、かつてギルドの誰もが背中を追いかけた、あの豪快な英雄のシルエットと一瞬だけ重なったからだ。
――グルゥゥァァアアッ!!
変異種が激昂し、地響きを立てて突進してくる。
迫り来る、すべてを噛み砕く巨大なハサミ。
レイは引き付けた。
敵の動きが、驚くほどゆっくりに見える。
恐怖はない。
ただ、己の肉体と大剣を一つにする感覚だけが、研ぎ澄まされていく。
大地の力を足の裏で受け止め、腰へ、背中へ、そして両腕へと伝えていく。
力を入れるのは、刃が当たる――その一瞬だけ。
「おおおおおおおっ!!」
レイは咆哮とともに、大剣を天高く振り上げ、一歩前へと踏み出した。




