第二十三章:旅立ちの朝
翌朝、ギルムの街はいつもと変わらない、せわしない夜明けを迎えていた。
朝靄が立ち込める中、レイは宿を引き払い、東の正門へと向かって歩いていた。
その足取りは、かつてこの街にやってきたときとは比べ物にならないほど力強い。
背中には、相変わらず身の丈を超えるほどに巨大な鉄の塊――大剣。
ずしりとした重量は今もレイの身体にのしかかっているが、それはもう、彼を苦しめる重荷ではなかった。
己の血肉となり、未来を切り拓くための、頼もしい相棒の重みだ。
「おい、大剣の」
門の手前、街道の脇にある木に背を預けていた人影が、低い声で呼びかけてきた。
仕立ての良い軽鎧に、美しい細剣。レオンだった。
「レオンさん。……見送りに来てくれたんですか?」
「勘違いするな。朝の散歩のついでだ」
レオンは腕を組んだまま、いつも通りぶっきらぼうに言い放つ。
しかし、その視線はまっすぐにレイを見つめていた。
「……本当に行くのだな。ここを離れれば、これほど安全で依頼の多い街はそうそうないぞ」
「はい。でも、ここにいたら、レオンさんに甘えちゃいそうですから。
もっと広い世界を見て、もっと強い魔物と戦って、僕の『力』を試してみたいんです」
レイは屈託のない笑みを浮かべた。
その瞳には、未知の世界への恐怖など微塵もなく、ただ純粋な決意の光だけが満ちている。
レオンはしばらく黙っていたが、やがてふっと息を漏らし、組んでいた腕を解いた。
そして、腰の細剣の柄をパチンと叩く。
「いいだろう。なら、一つだけ忠告だ。
お前の大剣は強い。だが、世界にはその質量すら容易にねじ伏せる化け物がゴロゴロいる。
慢心した瞬間、その鉄クズはお前の墓標になると思え」
「……はい。肝に銘じます」
「それと」
レオンは一歩前に出ると、レイの目をまっすぐに見据えた。
「次に会うときは、どちらが真の『盾と矛』か……手合わせでもしてもらう。
それまで、せいぜい不格好に生き延びろ、レイ」
「レオンさん……。はい! 次に会うときは、もっと驚かせてみせます!」
レイは力強く頷き、右手を差し出した。
レオンもまた、微かに口元を緩め、その手をがっしりと握り返す。
二人の手のひらには、共に死線を潜り抜けた者だけが知る、硬く逞しいマメの感触があった。
手を離し、レイは振り返ることなく正門をくぐった。
朝日に照らされた長い街道が、地平線の彼方へとまっすぐに伸びている。
背中の大剣に手をかけ、一歩、また一歩と、新しい足跡を大地に刻んでいく。
少年が背負う鉄塊の影は、いつしか、かつてこの街を救ったという偉大な英雄の後姿へと、確実に近づき始めていた。




