第二十四章:新たな土、未知なる風
ギルムの街を後にしてから、早くも半月が経過していた。
ひたすら東へと続く街道を歩き続けたレイの前に、ようやく新しい街の輪郭が見えてきた。
国境近くに位置する交易都市、ルミナス。
古くから異なる文化が交差するその街は、ギルムのような荒々しい熱気とは違い、どこか冷徹で、洗練された空気が漂っている。
「……よし、まずは宿と、ギルドの場所を確認しないとな」
レイは額の汗を拭い、背中の大剣の位置を確かめるように肩を揺らした。
半月間の過酷な旅路は、それ自体がレイにとって格好の訓練となっていた。
野宿の夜も欠かさず続けた素振りと、街道沿いで襲いかかってくる野良魔物との実戦。
今や大剣の重みは、彼の身体の重心と完全に一体化している。
歩く姿にも、かつてのような無様なふらつきは一切なかった。
ルミナスの重厚な石門をくぐると、舗装された美しい街路が広がっていた。
行き交う人々の中には、見たこともない異国の法衣を纏った者や、全身を風変わりな革鎧で固めた冒険者の姿も多い。
レイは周囲の喧騒を通り抜け、街の中心部にあるという冒険者ギルドへと足を向けた。
ギルムのギルドが「荒くれ者の酒場」なら、このルミナスのギルドは「冷徹な傭兵の詰所」といった風情だった。
大きな石造りの建物の中は不気味なほどに静かで、受付の前には整然と列が作られている。
誰もが無駄口を叩かず、ただ鋭い目つきで掲示板の依頼書を睨みつけていた。
そこへ、泥にまみれた旅装束のレイが入り込んだのだ。
背中には、この街の洗練された武器とは明らかに質の違う、ひどく無骨で巨大な鉄の塊。
「……おい、見ろよ」
「ギルムの方から流れてきた粗骨な大剣使いか?」
低く、値踏みするような囁き声が、冷え切った空気の中に伝わっていく。
しかし、レイはその視線に怯むことはなかった。
かつてギルムで浴びせられた悪意に満ちた嘲笑に比べれば、この程度の冷視など、そよ風のようなものだ。
レイは静かに受付へと歩み寄り、自身の冒険者プレートを差し出した。
「ギルムの街から来ました。レイです。
この街での活動登録をお願いします」
受付の女性職員は、感情の読めない冷淡な目でプレートを確認し、それからレイの背中の大剣へ視線を走らせた。
「レイ様ですね。確認しました。
……ですが、忠告しておきます。このルミナス周辺の魔物は、ギルム近郊のものとは生態も強さも異なります。
特に、この先の『霧の渓谷』に出没する魔物は、ただ力任せに武器を振り回すだけでは、触れることすら叶いませんよ」
職員の言葉は、静かだが明確な警告だった。
「触れることすら、できない……」
レイはその言葉を頭の中で反芻し、不敵に、しかし謙虚に口元を引き締めた。
レオンが言っていた通り、世界は広い。自分の大剣が通用しないかもしれない戦場が、すぐ目の前に迫っているのだ。
恐怖よりも先に、胸の奥から熱い高揚感が湧き上がってくるのを、レイは確かに感じていた。




