第一章:鉄の塊を背負う者
始まりは、いつも通りの、何の変哲もない朝だった。
小鳥のさえずりが響く街道を、青年――レイは一人で歩いていた。
その足取りは、ひどく重い。
理由は明白だった。
背中に背負った、身の丈を超えるほどに巨大な鉄の塊。
並の人間であれば、持ち上げることすら諦める重量の「大剣」が、一歩歩くたびにその身をきしませていたからだ。
「くっ……重、すぎる……」
額から流れる汗を、粗末な布の袖で拭う。
レイの体つきは、お世辞にも戦士に向いているとは言えなかった。
線が細く、どちらかと言えば、魔導書の頁をめくっている方が似合うような風貌だ。
街の誰もが、彼が大剣を買い求めたとき、正気を疑った。
「そんなひょろい体で、何をするつもりだ」と、鍛冶屋の親父にも呆れられた。
それでも、レイはこの大剣を選んだ。
いや、これ以外の武器を選ぶわけにはいかなかったのだ。
彼には、どうしても手に入れたい「圧倒的な力」があった。
「……ここでへばってたら、あの人に、笑われる」
レイは歯を食いしばり、大剣の重みを受け止め直して、再び足を踏み出す。
目指すのは、この先にある新興都市、ギルム。
多くの冒険者が集い、そして多くの富と命が循環する、始まりの街だ。
街道の先に見えてきた巨大な城壁を見上げながら、レイは胸の奥でふつふつと湧き上がる、焦燥に似た決意を確かめていた。
まだ、この鉄の塊をまともに振るうことすらできない。
しかし、ここからすべてが始まるのだ。
若者が一歩ずつ、重い足跡を刻みながら、栄光と混沌の待つ門へと吸い込まれていく。




