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大剣の冒険者  作者: beck2026


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第三十二章:黒岩の巣窟

ルミナスの街から東へ数里。

そこに広がる「黒岩の巣窟」は、その名の通り、不気味なほどに真っ黒な巨岩が乱立する荒涼とした渓谷だった。

 

太陽の光を浴びてもなお、岩肌は光を吸い込むように昏い。

遮蔽物となる巨岩が入り組んでいるため、死角が多く、いつどこから魔物が飛び出してくるか分からない、ルミナスでも屈指の危険地帯だ。

 

「ここから先は、霧の渓谷以上に周囲を警戒しろ。

 あちこちにある岩の隙間が、すべて奴らの隠れ処だ」

 

アレンが双剣の柄に手をかけ、声を潜めて告げる。

大柄なボルグも大盾を前に構え、一歩一歩の足取りに慎重さを滲ませていた。

 

レイは背中の大剣の柄に右手を添え、ゆっくりと周囲の岩肌に視線を走らせる。

黒い岩壁のあちこちに、大人が屈んで入れるほどの不気味な空洞が口を開けていた。

風がその隙間を通り抜けるたび、ヒュウ、ヒュウと、まるで魔物のすすり泣きのような音が響く。

 

――ガチリ。

 

不意に、すぐ左側にある巨岩の影から、硬い何かが擦れ合うような音がした。

 

「レイ、左だっ!」

 

アレンの警告と同時に、黒岩の裂け目から、凄まじい速度で何かが飛び出してきた。

 

それは、これまでに見たどの魔物よりも禍々しい姿をしていた。

全身を硬質な黒い甲殻で覆われた、巨大な蜘蛛のような魔物――「黒厳の暗殺蜘蛛ブラックシャドウ」。

その複眼が、獲物を捉えて怪しく赤く明滅する。

 

蜘蛛は着地すると同時に、その鋭い前足を鞭のようにしならせ、先頭を歩いていたボルグの大盾めがけて叩きつけた。

 

――ガンッ!!!

 

「うおっと……っ! なんて重さだ!」

 

頑強さを誇るボルグの身体が、衝撃でわずかに後ろへと押し込まれる。

蜘蛛はその隙を逃さず、ボルグの死角へと回り込もうと、複数の足を驚異的な速さで動かした。

側面から、ボルグの無防備な脇腹へ、毒を孕んだ鋭い爪が迫る。

 

「させないっ!」

 

レイは大地を強く踏みしめ、ボルグの前に割り込んだ。

 

引き抜かれた大剣が、暗い渓谷の空気の中で鈍い軌跡を描く。

ただ力任せに振るのではない。

蜘蛛がボルグに迫る突進の軌道、その完璧な「通過点」を見定め、そこに圧倒的な質量をあらかじめ配置するように。

 

力を入れるのは、刃が当たる――その一瞬だけ。

 

「おおおっ!」

 

――ドガァァァンッ!!!

 

激しい破壊音が黒岩の壁に反響した。

レイの大剣は、突っ込んできた蜘蛛の硬い頭部を真っ向から捉えていた。

いかに強固な黒い甲殻であっても、レイの放った完璧な軸による質量の一撃の前には、耐え切れるものではない。

 

バリィィン、とガラスが割れるような音を立てて甲殻が砕け散り、蜘蛛の巨体は真横の巨岩へと激しく叩きつけられた。

 

「ギ、チ、チ……」

 

蜘蛛は数秒間、細い足を不規則に痙攣させていたが、やがて力尽きたように動きを止めた。

 

「ふぅ……」

 

レイは大剣を構えたまま、静かに息を吐き出す。

今回は体勢を一切崩していない。

敵の重さを受け止め、自らの力へと変えて叩き伏せる感覚が、完全に身体に馴染んでいた。

 

「助かったぜ、レイ! まさかこれほどの硬度を持つ奴を、一撃で黙らせちまうとはな……!」

 

ボルグが冷や汗を拭いながら、太い腕でレイの肩を叩く。

アレンも双剣を構えたまま、感嘆の吐息を漏らしていた。

 

しかし、レイの表情は引き締まったままだった。

研ぎ澄まされた彼の五感が、黒い岩肌のあちこちから、さらに無数の「カサカサ」という不快な這いずる音を捉えていたからだ。

 

「アレンさん、ボルグさん……。

 喜ぶのは、まだ早いです。……次が、来ます!」

 

不気味な黒岩の奥から、無数の赤い複眼がじわじわと浮かび上がってくる。

新星の大剣使いと新たな仲間たちの、本当の死闘が始まろうとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

レイの大剣使いとしての旅、そして成長を

これからも応援していただけると嬉しいです。

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