第三十三章:黒岩の包囲網
黒い岩肌の隙間から、一つ、また一つと怪しく蠢く赤い複眼が浮かび上がってくる。
「黒厳の暗殺蜘蛛」の群れ。
その数は、ざっと見て十数匹。
ルミナスのベテランパーティーであっても、一度包囲されれば生還は難しいと言われる絶望的な光景だった。
「チッ、これほどの数が一度に動くなんて、聞いてないぞ……!」
アレンが双剣を構え直しながら、低く悪態をつく。
ボルグも大盾を構える手にぐっと力を込め、前線の一角を死守する構えを見せたが、その額からは大粒の冷や汗が流れ落ちていた。
死角の多い黒岩の渓谷。
前後左右、さらには頭上の岩壁からも、音もなく蜘蛛たちがじりじりと距離を詰めてくる。
――シャーッ!!
ついに、先頭の二匹が同時に跳躍した。
一匹はアレンへ、もう一匹はボルグの盾の隙間を狙った、鋭い波状攻撃。
「ボルグさんは正面を! 右は僕がやります!」
レイの鋭い声が、焦る仲間の心を一瞬で繋ぎ止めた。
レイは大剣を正眼に構えたまま、右側から迫る蜘蛛の軌道へと一歩踏み出す。
毎朝、レオンに叩き込まれたミリ単位の軸の制御。
そして、ルミナスの霧の中で培った、風の動きを察知する予測の力。
それらが今、完全に噛み合い、レイの身体を最適の速度で動かしていた。
(力を入れるのは、当たるその一瞬だけ――)
引き付け、大剣を最短距離で振り下ろす。
落下のエネルギーのすべてが、蜘蛛の脳門へと一点に集中した。
――ドガァァンッ!!!
凄まじい質量の一撃が、突っ込んできた蜘蛛の硬殻を容赦なく叩き割る。
緑色の体液を撒き散らしながら蜘蛛が沈むのと同時に、レイはその反動を腰の回転へと滑らかに繋げた。
重さを殺さず、むしろその遠心力を利用して、今度は頭上から降下してきた二匹目の蜘蛛に向けて大剣を跳ね上げる。
――ズガァァァンッ!!!
「ギ、チチチッ……!?」
空中での激突音が響き渡り、二匹目の蜘蛛は防ぐ術もなく真横の黒岩へと叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
「よし、レイ! そのまま左の包囲を崩すぞ!」
レイの圧倒的な迎撃を見たアレンが、果敢に声を張り上げる。
アレンの双剣が疾風のごとく閃き、レイが体勢を崩した蜘蛛の隙間を正確に切り裂いていく。
ボルグの大盾が敵の突進を完全に阻み、その背後からレイの大剣がすべてを叩き潰す。
ただ一人で鉄塊を振るっていた頃にはできなかった、完璧な連携。
仲間が隙を埋めてくれるからこそ、レイは大剣の持つ「最大の一撃」を、何のためらいもなく叩き込むことができるのだ。
一匹、また一匹と、蜘蛛の巨体が黒い地面へと沈んでいく。
絶望的だったはずの包囲網は、新星の大剣使いとルミナスの仲間たちの力によって、確実に、そして圧倒的に食い破られようとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
レイの大剣使いとしての旅、そして成長を
これからも応援していただけると嬉しいです。
「続きが気になる!」
「ちょっと面白くなってきたな」
と思ってくださったら、
下にある【ブックマーク追加】や、
評価の【☆☆☆☆☆】をポチッと押し、
応援していただけると、執筆の凄まじい励みになります!
それでは、また次回の更新でお会いしましょう!




