第十六章:暗がりの異変
「やりました……。僕、本当に、殻ごと叩き潰せました……!」
レイは自分の両手を見つめ、それから大剣の刃に目を落とした。
あれほど硬そうだった地潜りの甲虫の死体が、目の前に転がっている。
かつて無様に転がっていた少年は、確かに自らの力で、この鉄塊の強みを引き出してみせたのだ。
「満足するのはまだ早い。だが……及第点だな」
レオンは細剣の血を払い、鞘に収めながらも、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。
厳しく仕込んできた成果が、こうして目に見える形で現れたことが、彼にとっても誇らしかったのだろう。
「さあ、残りの個体がいないか奥を――」
レオンが言葉を続けようとした、その時だった。
――地響きが、不気味に坑道を満たした。
ズズ、ズズズ……と、先ほどまでの甲虫の足音とは明らかに違う、巨大な何かが地を這うような音が響いてくる。
壁の古いランタンが小刻みに揺れ、天井からパラパラと土砂が落ちてきた。
「レオンさん、これって……」
「おかしい。ギルドの事前調査には、こんな大型の魔物の兆候はなかったはずだ」
レオンの表情から瞬時に余裕が消え、冷たい緊張が走る。
坑道の奥、暗黒の深淵から現れたのは、通常の甲虫の数倍はある、文字通りの『巨躯』だった。
赤黒く変色した外殻は岩のようにゴツゴツと波打ち、一対の巨大なハサミが、火花を散らしながら激しく開閉している。
「……変異種、か!?」
レオンの声が、かつてないほどに鋭く尖る。
その魔物が放つ圧倒的な凶気は、先ほどの雑魚とは比べ物にならなかった。
赤黒い巨獣は、侵入者である二人をその濁った複眼で捉えると、狭い坑道を揺るがすほどの咆哮を上げた。




