第八章:交錯する思惑
「……え?」
レイが目を開けると、目の前には信じられない光景が広がっていた。
躍りかかってきた狂犬の牙を、鋭い刃が真っ向から受け止めている。
仕立ての良い軽鎧と、見事な美しさを放つ細剣。
そこにいたのは、昨日ギルドでレイを激しく見下した、あの男だった。
「チッ、すばしっこい雑魚め!」
男は鋭い踏み込みと共に細剣を払う。
流れるような一閃が狂犬の首筋を切り裂き、鮮血が荒野の砂を赤く染めた。
一撃で一匹を仕留めた男は、すぐに細剣の血を払い、背後のレイを忌々しげに睨みつける。
「言ったはずだ、新入り。
そんな木偶の坊を背負ったままでは、今日生き残ることはできない、とな」
「あ、あなたは……どうしてここに……」
「勘違いするな。お前を助けに来たわけではない。
我々は最初から、この狂犬の群れを狩る依頼を受けていた。
お前のような足手まといに、獲物を横取りされては不愉快なだけだ」
男の背後から、数人の取り巻きの冒険者たちも武器を構えて現れる。
彼らの目は一様に冷ややかで、レイを完全に「お荷物」として扱っていた。
しかし、冷徹な言葉とは裏腹に、男の視線は一瞬だけ、レイが握りしめている大剣の柄へと向けられた。
その眼光には、侮蔑だけではない、何か別の暗い感情が混ざっているように見えた。
――グルルルル……っ!
仲間を殺された残りの二匹の狂犬が、さらに激しい敵意を剥き出しにして、低く唸り声を上げる。
「おい、新入り。死にたくなければ、そこで大人しく見ていろ。
本物の『剣技』がどういうものか、その目に焼き付けておけ」
男は細剣を美しく構え、再び赤い影へと地を蹴った。




