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「針仕事しかできない地味令嬢はいらない」と婚約破棄されましたが、王太子妃の婚礼衣装を救った私を追い出した侯爵家は、王家御用達も信用も失ったようです

作者:ろくさんだ
最終エピソード掲載日:2026/10/03
「針仕事しかできない地味令嬢はいらない」

 王家御用達の仕立工房を継ぐ婚約者セルジュに、客と職人の前でそう告げられ、エレノアは椅子ごと席を片づけられました。

 三年のあいだ、王家の意匠を引き、原型を裁ち、徹夜で直しを入れてきたのは彼女です。けれどその功績はすべて、義妹ミレーヌのものとして飾られてきました。

 ちょうどその場に、王太子妃殿下がいらしていました。

 殿下のお召し物の袖には、歪みがありました。エレノアは許可を得て、三針だけ直します。腕を上げても、布は引きつれませんでした。

 そして、静かに尋ねました。

「では、この三十二着はどなたが仕上げますの?」

 王家より承った十二着。ご参列の方々の二十着。まだ一着も仮縫いを通していません。裁つ前に身体を測らず、裁った後に確かめもしない――それがこの工房のやり方でした。

 殿下は、王家からの十二着をその場で撤回なさいました。

 そして仕立場の隅に立っていた公爵は、エレノアの手を取りませんでした。代わりに招請状を仕立台へ置いて、こう言ったのです。

「仕事を受けるか、場所を見るか、すべてあなたが選んでください」

 エレノアは復讐しません。妨害もしません。ただ、きちんと仕上げられる場所で、一着ずつ仕上げていくだけです。

 けれど彼女が一着仕上げるたび、旧工房からは注文が消え、職人が去り、違約金が積み上がっていきます。

 王家御用達の看板が外れる日まで、あと何着でしょうか。

 ――針しか持てない女が、婚礼衣装で王都の信用を縫い直す話です。
三つの仕立台
2026/09/08 16:43
歩ける旅装
2026/09/08 16:44
同じ光
2026/09/08 16:45
残ると決めた手
2026/09/08 16:45 (改)
裂けた袖
2026/09/12 19:30 (改)
原型棚の鍵
2026/09/14 19:30
光を分ける二着
2026/09/16 19:30
息のできる礼装
2026/09/18 19:30
選べる礼装
2026/09/20 19:30
秘密を守る採寸
2026/09/21 19:30 (改)
三つの針箱
2026/09/29 19:30
開かれた内側
2026/09/30 19:30
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