三つの仕立台
扉に打ちつけられた告知は、翌朝になっても残っていた。
通りを行く人が足を止め、盗用という二文字を読んでいく。胸が痛まないわけではない。けれど、セルジュの言い分に針を止めれば、それこそ十二着は仕上がらない。
「外してもよろしいですか」
公爵が私に尋ねた。
「いいえ。今はそのままにしてください」
「不快ではありませんか」
「不快です。でも、言い返すために使う時間はありません。原型は、着る方の身体から作るものです。私の手元に何もなくても、採寸から始めればよいのです」
私は告知に背を向けた。
今日、先に整えなければならないものがある。
昨日ここへ来た三人の職人は、一列に並んだ仕立台へ遠慮がちに座っていた。台はどれも同じ高さで、椅子も同じ形だ。見栄えはよいが、三人の身体にも仕事にも合っていない。
「少し縫ってみてください。速くなくて構いません」
私は同じ麻布を三枚に切り、針と糸を渡した。
年長の職人は、細かなまつり縫いが得意だった。けれど目を近づけるために背を丸め、十針も進まないうちに首を押さえた。
二人目は長い指で仮縫いをまっすぐ進めた。座るより立って布を送るほうが安定する。
三人目は縫い目を割り、厚い重なりを整えるのがうまい。ただ、利き手側に置かれた引き出しが肘に当たり、何度も手を止めていた。
針幅だけを見るのでは足りない。布へ向かう姿勢も、手を伸ばす方向も、その人の仕事の一部だ。
私は紐尺を持ち、一人ずつ肘の高さと、目から布までの距離を測った。台の脚へ印をつけ、窓から入る光の向きに合わせて場所を変える。
年長の職人の台は椅子を高くし、布を置く面をわずかに傾けた。二人目には立ったまま一周できる広い台を置く。三人目の台からは利き手側の引き出しを外し、代わりに反対側へ浅い道具箱を固定した。
「こんなに変えていただいてよいのですか」
年長の職人が戸惑ったように言った。
「台に身体を合わせ続ければ、肩か指を傷めます。傷めた手で急いでも、よい縫い目にはなりません」
公爵家の者が、新しい道具を載せた台車を運び込んできた。銀色に光る鋏、高価な指ぬき、象牙の糸巻きまで揃っている。
公爵は一番上の品を取って渡そうとはしなかった。
「必要なものを、それぞれ選んでほしい。値段ではなく、手に合うものを」
三人は顔を見合わせ、それから一本ずつ針を取り上げた。
年長の職人が選んだのは、飾りのない細い針だった。二人目は柄の大きな裁ち鋏を何度か開閉し、別の、少し軽いものへ戻した。三人目は新しい指ぬきではなく、昨日まで使っていた傷だらけの品を磨き直したいと言った。
「もちろん、それでよい」
公爵は即座に頷いた。
私は三人の前へ、王太子妃殿下の衣装に使うものと同じ厚さの試し布を置いた。
「まつりはあなたに。仮縫いはあなた。縫い代を割るところは、あなたにお願いします。ただし、合わないと思ったら必ず止めてください」
「止めても、叱られませんか」
「止めずに歪ませたら叱ります」
三人が、初めて声を立てて笑った。
針が動き始める。細かな縫い目、長くほどきやすい仮縫い、厚みを残さない縫い代。それぞれ違う手つきなのに、一枚の試し袖へきれいにつながっていった。
私は肩の頂点、布目、腕のゆとりを三針で留めた。年長の職人が裏をまつり、二人目が次の印まで仮縫いを進め、三人目が袖下の重なりを整える。
昼前には、最初の試し袖が形になった。
誰か一人だけが無理をして仕上げたものではない。三人の得意な仕事が途切れずにつながった、私たちの最初の一枚だった。
「昨日より、肩が痛くありません」
年長の職人が自分の首を回した。
二人目は広い台の周りを歩き、もう一度やらせてほしいと言った。三人目は外した引き出しの跡を撫でてから、真っすぐ私を見た。
「ここなら、手を隠さずに働けます」
その言葉に、私は返事ができなかった。
旧工房では、上手に縫った品ほどミレーヌの成果として表へ出された。職人は自分の縫い目を誇ることさえ許されなかったのだ。
私は三つの台へ、それぞれ本人が選んだ道具を置いた。
「ここが皆さんの仕立席です。使い方も、受け持つ仕事も、一緒に決めましょう」
三人が自分の席へ座る。それだけの光景なのに、胸の奥が熱くなった。
十年間使った椅子を失った私が、今度は三人分の居場所を作れたのだ。
そのとき、工房の前に二人の職人が現れた。旧工房の前掛けを外し、畳んで腕に抱えている。
「今朝、侯爵家へこれを返してきました」
「私たちも辞めました」
昨日ここへ来た三人と合わせれば、旧工房を去った職人は五人になる。
二人は雇ってほしいとは言わなかった。一人はしばらく家族の仕事を手伝い、もう一人は帽子店で働けるか尋ねて回るという。
「ただ、伝えておきたかったのです。十二着を失い、金貨六百枚の違約金を請求されても、あの人たちは縫い方を改めませんでした。残った者へ、昼も夜も働けと言っただけです」
「だから、もう従わないことにしました」
私は引き留めず、旧工房へ戻ってほしいとも言わなかった。
「お二人の手を必要とする場所を、ご自分で選んでください」
二人は深く頭を下げ、別々の道へ歩いていった。
「来た者を全員ここへ囲うのかと思っていました」
公爵が言った。
「職人は数ではありません。私の都合で席へ縛れば、セルジュと同じです」
公爵は三つの仕立台を見渡した。
「あなたは衣装だけでなく、働く者が力を出せる場所まで仕立てるのですね」
真っすぐにそう言われると、針を褒められるより落ち着かなかった。
台の脚をもう少し内側へ動かそうと手をかけると、公爵も反対側に立った。
「手伝っても?」
「はい。そこを持ってください」
二人で持ち上げると、台は驚くほど軽く動いた。下ろす合図が重なり、目が合う。触れてはいないのに、胸の鼓動だけが一つ早くなった。
午後、三人は新しい席で二枚目の試し袖へ取りかかった。最初より縫い目が揃い、誰も肩を押さえず、誰も引き出しに肘をぶつけなかった。
そこへ、一台の馬車が工房の前で止まった。
降りてきた女性客は、旅装の裾を翻して中へ入り、仕立台の上の試し袖を指さした。
「これを縫ったのが、エレノア・リース?」
「皆で仕上げました。私は工程を組み、三針を留めました」
女性客は私の顔をじっと確かめたあと、着ていた旅装の上着を脱ぎ、仕立台へ置いた。肩が引きつれ、片方の袖だけがねじれている。
「今朝の茶会で、ミレーヌ嬢が七人の客へ話していたわ。あなたは侯爵家から原型を盗み、同じ形しか縫えないのだと」
工房の空気が止まった。
女性客は、歪んだ旅装を私の前へ押し出した。
「盗んだ形ではなく、着る人から原型を作れると言うのなら――明日、皆の前でこれを直してちょうだい」
(第4話へ続く)




