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SHEEP:ヤスコ先生の恋人。

作者:樫山泰士
拝啓
 ご無沙汰しております。

 先日、そちらの近所を歩いていたら、とてもきれいな果実を見かけました。赤味をおびた黄色の果実で、ふるいお家の垣根の庭が、なんだか華やぐようでした。

 その時の僕は、そのきれいな果実に、目をうばわれるだけうばわれていて、それに気づいたのは、そこを通り過ぎたあと、そのあと行った図書館でのことでした。分かりますよね? 神社の向かいの、あの図書館です。

 心には下ゆく水のわきかへり 言はで思ふぞ言ふにまされる

 さて。この歌は、『古今和歌六帖』という歌集にのっている歌だそうで、『枕草子』で清少納言が――と、こんなことは書かなくても、先生ならご存知のことかとは想いますけれど、あの図書館の司書のかた曰く、この歌を読み解くには、『古今集』のこちらの歌も知っておく必要があるということでした。

 山吹の花色衣ぬしや誰 問へど答へずくちなしにして

 つまり、最初の歌の「言はで思ふぞ」と、こちらの歌の「くちなし (口無し)」とはかかっていて――これも僕は初めて知ったのですが――どうやら、僕らの知っている「山吹色」は「くちなし色」とも言われるそうで、それでつまり、ここの「山吹の花色衣」という句も、最後の「くちなし」とかけられているのだそうです――が、ちゃんと説明出来ているかな? 分かりにくかったら、ごめんなさい。

 と、それはさておき。ここで話は最初に戻るのですが、先日僕が見かけた、ふるいお家の垣根の庭で見かけた、あのキレイな果実、あれは、あの夏の日の朝、あなたに教えてもらった、あの、しろい花の木になる実のようなのです。

 あんな白い花の木に、あんな黄色の果実がなって、とてもきれいな黄色の布を染めることになるのだそうで――もう、秋なんですね。

 それでは最後に。くちなしついでに、図書館の司書さんから紹介された本にはいっていた歌を、もうひとつ。

 くちなしの 実の朱くなり きみ恋し

 どうか、お体に気を付けて。

 敬具
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エピソード 1 ~ 100 を表示中
はじめに。
2024/09/29 18:10
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