間奏:ハト/平野/塩の柱(その7.5)
さて。
と言うことで以上――いまお読み頂いた間奏パート (その1)から (その7)まで――が、このお話の前半部分と後半部分をつなげるための転調、樫山ヤスコと山岸まひろが出会い、言葉を交わし、ともに住み、互いに愛を交わし合う前、ある夏の、ある奇妙な、一週間の裏側で起きていた出来事である。
なので、これから私――このお話の作者であるところの私――は、お話の後半部分、如何にして山岸まひろが樫山ヤスコと離れ、物語冒頭に掲げたような、届く当てのない手紙を書くはめになったのか、その顛末と、願わくば彼 (あるいは彼女)が、無事、恋人の下へと戻るための寓話、フィクション、おとぎ話を書かなくてはならない――どこの誰でもないやり方で、しかし、それでも、古の詩人たちのやり方に敬意を払い、それを真似しながら。
が、あ、そうだな、しかし。
いま、読み返していて、大変重要なことを書き忘れていたことに気付いたので、それもついでに書いておこう、ここで。
そう。
それは、ある宇宙のある世界のある物語で、ふたつの街が焼き尽くされたときのお話である。
たしかにあの時、その街や人々が燃やし尽くされる様を見て、ある、ひとりの天使はこう言った。
「これで世界は、すこしはよくなる」
たしかに。
この天使の主張・意見・ご感想には一理あるのかも知れない――とは、前にも書いた。
が、そんな彼に反論――とはいかないまでも、彼とは異なる感慨を抱いた者もいた。そう。私や、杏奈ニア以外にも。
そう。
それは、ロトという男の妻であった。
ロトの一家は、ある運命のいたずらからか、問題の街に住むことになり、また別の、ある運命のいたずらからか、破壊の前の晩、その街から逃げ出すよう、これもまた別の、あるひとりの天使から言われていた。
「主がこの街を滅ぼされます。
家族の命が惜しいのならば、
いますぐここから逃げ出しなさい。
絶対にうしろを振り返ってはなりません。
いつまでもこの低地にいると、
死んでしまいます」
この言葉に従い、ロトの家族は街を逃げ出した。
すると、それと前後するように、天から火のように燃えさかる硫黄が堕ちて来、その街をおそった。
そうしてその為、そこに住むすべての動物、植物、生きとし生けるものすべてが、死に絶えることとなった。
ロトと、そのふたりの娘は助かり、山の奥へと逃げたが、ロトの妻、この物語の本当の主人公である彼女は、ひとり、そのうしろをふり返った。天使の忠告に背き、街や人が燃やし尽くされ、焼き尽くされる、その場面を見るために――そうして彼女は、柱となった。塩で出来た、もの言わぬ柱に。
そう。
そうして私は、この夫人の行為を、こころから尊敬する。
きっと彼女は、悪い人たちばかりであったその街すらをも憐れみ惜しみ、そうしてただただ、哀しんだであろうから。
そう。
だから私は、この夫人の行為を、こころから尊敬する――なるほど彼女は、とても勇敢なひとだ。
(続く)




