研磨師のわたくしに婚約破棄を告げるなら、せめて指輪を外してからになさいませ
最終エピソード掲載日:2026/09/08
「この程度の石で十分だろう。お前に本物は勿体ない」
婚約破棄を告げる男の指で、小さな石が光っていた。ヴィオラにはひと目で分かった。——四年前、自分がこの手で削った石だ。
削った石には、削った者の癖が残る。砥ぎの角度、面の運び、指の力の抜き方。だからヴィオラは、自分が仕上げた石を必ず見分けられる。王都の御用工房で十年、名前を貸されないまま石を削り続けてきた娘の、それがたった一つの財産だった。
けれど、その財産が彼女の首を絞める。四年前に「磨き直せ」と命じられた石は、すべて贋物だった。社交界に散らばった偽物には、一つ残らず彼女の癖が刻まれている。誰かが気づいたとき、罪を着るのは削った者だ。
石は、一度削れば二度と元には戻らない。証拠を消すことも、作ることも、彼女にはできてしまう。
「これは、あなたの仕事ですね」
王家の宝物庫を預かる青年ラウルだけが、彼女の石を彼女のものとして数えた。
自分が加担した嘘を、一つずつ数え直す物語。
※ハッピーエンド確約です。嘘をついた方々には、相応の目に遭っていただきます。
婚約破棄を告げる男の指で、小さな石が光っていた。ヴィオラにはひと目で分かった。——四年前、自分がこの手で削った石だ。
削った石には、削った者の癖が残る。砥ぎの角度、面の運び、指の力の抜き方。だからヴィオラは、自分が仕上げた石を必ず見分けられる。王都の御用工房で十年、名前を貸されないまま石を削り続けてきた娘の、それがたった一つの財産だった。
けれど、その財産が彼女の首を絞める。四年前に「磨き直せ」と命じられた石は、すべて贋物だった。社交界に散らばった偽物には、一つ残らず彼女の癖が刻まれている。誰かが気づいたとき、罪を着るのは削った者だ。
石は、一度削れば二度と元には戻らない。証拠を消すことも、作ることも、彼女にはできてしまう。
「これは、あなたの仕事ですね」
王家の宝物庫を預かる青年ラウルだけが、彼女の石を彼女のものとして数えた。
自分が加担した嘘を、一つずつ数え直す物語。
※ハッピーエンド確約です。嘘をついた方々には、相応の目に遭っていただきます。
第1話 婚約を破棄されましたが、その指の石はわたくしが削ったものです
2026/09/03 07:00
第2話 二年間、婚約者だったはずのわたくしには、石がありませんでした
2026/09/03 07:00
第3話 四年前の頁だけが、破り取られていました
2026/09/03 12:00
第4話 王宮の役人が、十年ぶりにわたくしの仕事を名指しました
2026/09/03 12:00
第5話 台帳のどこにも、わたくしの名前はありませんでした
2026/09/03 17:00
第6話 旦那様は、わたくしの十年を「工房の道理」とお呼びになりました
2026/09/03 17:00
第7話 六つまでは覚えているのに、七つ目だけが白いのです
2026/09/03 20:00
第8話 十年住んだ工房から持ち出せたのは、道具箱と、父の砥石だけでした
2026/09/03 20:00
第9話 三年ぶりに訪ねた恩師は、四年前の話にだけ答えませんでした
2026/09/03 22:00
第10話 面は増えるものです。減っている家が、一つございました
2026/09/04 07:00
第11話 伯爵令嬢は、面の数を数えたことがないとおっしゃいました
2026/09/04 12:00
第12話 宝物監は台帳に、「不一致」と書き入れました
2026/09/04 17:00
第13話 台所には、書簡より早く噂が届くのだそうです
2026/09/04 20:00
第14話 侯爵は微笑んで、「あなたなら分かるでしょう」とおっしゃいました
2026/09/04 22:00
第15話 認可をお持ちの方が、六年間、一度も削っていませんでした
2026/09/05 07:00
第16話 台帳の古い棚に、父の見本片が残っておりました
2026/09/05 12:00
第17話 凍える工房で、あの方は手袋をお外しになりました
2026/09/05 17:00
第18話 「この石を削ったのはあなたですか」と問われて、彼は答えられませんでした
2026/09/05 20:00
第19話 旦那様は、七つの石を削り直して癖を消せとおっしゃいました
2026/09/05 22:00
第20話 先生が認可を返上なさった理由を、十年ぶりに伺いました
2026/09/06 07:00
第21話 侯爵は宝物監に、「台帳をお持ちなさい」とおっしゃいました
2026/09/06 12:00
第22話 八日かけて台帳を書き写した方は、それを職務だとおっしゃいました
2026/09/06 17:00
第23話 一一二〇年に十一だった面が、一一二五年には十二になっておりました
2026/09/06 20:00
第24話 「一面だけ削り落としてください」と、侯爵はお願いなさいました
2026/09/06 22:00
第25話 恩師は元婚約者の手を取って、「削ったことないだろう」と申しました
2026/09/07 07:00
第26話 四年前の十二月に、あの方の師は亡くなっておりました
2026/09/07 12:00
第27話 「では、いま一面お削りください」と申し上げました
2026/09/07 17:00
第28話 申立書の一行に、生まれて初めて自分を書きました
2026/09/07 20:00
第29話 「では、お願いします」と院長が申しました
2026/09/07 22:00
第30話 わたくしの名で、最後の一面を削りました
2026/09/08 07:00