王都の縁談を二十年まとめてきた仲立ち、本日限りで店じまいいたします ~断る理由を書いた帳面はお渡ししましたが、お読みにならないようです~
最終エピソード掲載日:2026/09/07
二十年、王都の婚礼は、私の帳面の上で決まってまいりました。
この家は酒。この家は支払いが三月遅れます。この娘さんは、姑と同じ屋根では暮らせません。あの家の次男は、朝が一切だめでございます。
仲立ちの仕事は、縁を結ぶことではございません。結ばない理由を知っていることでございます。
私が伺いますのは、家格ではございません。三つだけです。
朝、いちばん先に起きるのはどなたか。その手が、いちばん長くしているお仕事は何か。お困りのとき、いちばん先に誰へおっしゃるか。
刻は違うほうがよろしゅうございます。手も違うほうが。頼り先だけは、同じでないと持ちません。
私はマルティーヌ。十八の年から、王都アンブロワで仲立ちを二十年務めました。
ですが、後見をお継ぎになった若い縁組頭さまは、こうおっしゃいました。
「陰口の帳面など要らん。釣り合いなど、家格を見れば分かる」
「ようございます。では、本日限りで」
私は規定どおり、一月前に予告し、引き継ぎを三度申し出て、三度お断りいただき、帳面を三部そろえて店を畳みました。役所へ一部、公証人へ一部、私の控えが一部でございます。
移りました先は、縁談が十年、一件もまとまっていない貧しい領でございます。
若い領主さまは、面接の席でこうおっしゃいました。
「お支払いできるのは、畑の実りぶんです。ですが、まとまらなかった縁のぶんも、お支払いします。あなたが断ってくださった縁こそ、お仕事ですから」
――ようございます。ここを、私の店にいたしましょう。
一方、王都では。家格だけで組んだ縁が、順番に壊れております。
王都が無能なのではありません。あの方は有能で、壊れたあとの始末は誰よりお早い。ただ、壊れる前に断ることだけが、どうしてもできない。断る理由を、お読みになっていないからです。
――ところで。
私の帳面には、一頁だけ、二十年、白いままの頁がございます。
私自身の釣書でございます。
他人さまの縁でしたら、いくらでも結んでまいりましたのに。自分の縁となりますと、断る理由しか思いつかないのでございます。
この家は酒。この家は支払いが三月遅れます。この娘さんは、姑と同じ屋根では暮らせません。あの家の次男は、朝が一切だめでございます。
仲立ちの仕事は、縁を結ぶことではございません。結ばない理由を知っていることでございます。
私が伺いますのは、家格ではございません。三つだけです。
朝、いちばん先に起きるのはどなたか。その手が、いちばん長くしているお仕事は何か。お困りのとき、いちばん先に誰へおっしゃるか。
刻は違うほうがよろしゅうございます。手も違うほうが。頼り先だけは、同じでないと持ちません。
私はマルティーヌ。十八の年から、王都アンブロワで仲立ちを二十年務めました。
ですが、後見をお継ぎになった若い縁組頭さまは、こうおっしゃいました。
「陰口の帳面など要らん。釣り合いなど、家格を見れば分かる」
「ようございます。では、本日限りで」
私は規定どおり、一月前に予告し、引き継ぎを三度申し出て、三度お断りいただき、帳面を三部そろえて店を畳みました。役所へ一部、公証人へ一部、私の控えが一部でございます。
移りました先は、縁談が十年、一件もまとまっていない貧しい領でございます。
若い領主さまは、面接の席でこうおっしゃいました。
「お支払いできるのは、畑の実りぶんです。ですが、まとまらなかった縁のぶんも、お支払いします。あなたが断ってくださった縁こそ、お仕事ですから」
――ようございます。ここを、私の店にいたしましょう。
一方、王都では。家格だけで組んだ縁が、順番に壊れております。
王都が無能なのではありません。あの方は有能で、壊れたあとの始末は誰よりお早い。ただ、壊れる前に断ることだけが、どうしてもできない。断る理由を、お読みになっていないからです。
――ところで。
私の帳面には、一頁だけ、二十年、白いままの頁がございます。
私自身の釣書でございます。
他人さまの縁でしたら、いくらでも結んでまいりましたのに。自分の縁となりますと、断る理由しか思いつかないのでございます。
1. 王都の縁談を二十年まとめてきた仲立ち、本日限りで店じまいいたします
2026/08/16 22:08
2. 刻の違うふたりは、一日が長うございます
2026/08/17 09:10
3. 笑うのは、おやめくださいまし
2026/08/17 19:48
4. 水は、縁では繋がりません
2026/08/18 15:50
5. 断る理由なら、いくらでもございます
2026/08/18 21:09
6. この家の火は、これから絶えません
2026/08/19 08:30
7. いまは、ではございません
2026/08/19 14:11
8. 頼り先が私では、いけませんか
2026/08/19 17:30
9. どこでお休みになりますか
2026/08/19 23:30
10. その紙には、朝が書いてございません
2026/08/20 10:35
11. 持参金の代わりに、何をお出しになれますか
2026/08/20 12:30
12. 雪の来る前の、終いの日でございます
2026/08/21 14:01
13. 一件に、一行でございます
2026/08/21 18:30
14. 塩の道は、雪で閉じます
2026/08/22 13:51
15. 私の分は、まだ書けません
2026/08/23 00:48
16. 同じ日を、二度お過ごしになります
2026/08/23 08:30
17. 日取りは、屋根の後でございます
2026/08/23 17:30
18. 人を、代わりにはお出しになれません
2026/08/24 15:31
19. 行かないとおっしゃる先は、頼り先ではございません
2026/08/24 21:30
20. あちらでは、いま、名が止まっております
2026/08/25 08:36
21. 数えていないものが、まだございます
2026/08/26 22:51
22. 合わぬと書いた娘の、その後でございます
2026/08/28 11:52
23. その家は、もうございません
2026/08/28 20:30
24. 代筆は、書いた人の名では残りません
2026/08/29 08:30
25. あれは、この村の帳面でございます
2026/08/29 18:30
26. 考え直せる七日が、消えます
2026/08/30 21:38
27. 帰る先は、ご本人がお決めになります
2026/08/31 08:30
28. 一日に、二組まででございます
2026/09/01 09:53
29. 数えると、申しました
2026/09/06 14:11
30. 自分の釣書だけは、書けません
2026/09/07 08:30