イサナ(古い言葉で鯨)
最新エピソード掲載日:2026/11/03
私は、この世界で起きることをひとつ残らず見ている者です。戦場で縄が切られる音も、宮廷で銀の匙が置かれる音も、山奥の村で鍋が煮える音も、同じ夜に、同じだけ聞こえています。見て、聞いて、帳面に書き留める。それが私の役目です。
名前は、ありません。それでは呼びにくいでしょうから、港の外れにある好きな宿の名から借りて、イサナと名乗っておきます。古い言葉で、鯨のことです。
その帳面の最後の頁に、ある晩、見たことのない文字が浮かびました。はじめは読めませんでしたが、紙の向こうで誰かがこちらを覗いている、その気配だけははっきりと伝わってきました。どういう仕組みなのかは、すべてを見ているはずの私にも、わかりません。けれど、向こうに読む人がいるのなら、書いてみようと思ったのです。
それから毎晩、浮かんでくる文字を眺めているうちに、そちらの言葉が少しずつわかるようになりました。ですからこの帳面は、そちらの言葉に直して書いています。料理や道具の名も、なるべくそちらで通じる名に置き換えました。たとえば私が「豚汁」と書いたら、こちらで豚汁にいちばん近いもののことだと思ってください。似ているだけで、まったく同じではないかもしれません。どうしても置き換えられないものだけ、こちらの名のままにしてあります。
名前は、ありません。それでは呼びにくいでしょうから、港の外れにある好きな宿の名から借りて、イサナと名乗っておきます。古い言葉で、鯨のことです。
その帳面の最後の頁に、ある晩、見たことのない文字が浮かびました。はじめは読めませんでしたが、紙の向こうで誰かがこちらを覗いている、その気配だけははっきりと伝わってきました。どういう仕組みなのかは、すべてを見ているはずの私にも、わかりません。けれど、向こうに読む人がいるのなら、書いてみようと思ったのです。
それから毎晩、浮かんでくる文字を眺めているうちに、そちらの言葉が少しずつわかるようになりました。ですからこの帳面は、そちらの言葉に直して書いています。料理や道具の名も、なるべくそちらで通じる名に置き換えました。たとえば私が「豚汁」と書いたら、こちらで豚汁にいちばん近いもののことだと思ってください。似ているだけで、まったく同じではないかもしれません。どうしても置き換えられないものだけ、こちらの名のままにしてあります。
第0話 序 見届け人より
2026/10/19 20:41
第1話 兵の荷袋
2026/10/19 20:42
第2話 路地の鍋と屋台
2026/10/20 07:10
第3話 宮廷の食卓
2026/10/20 11:30
第4話 千年鍋と、ひとつきりの味
2026/10/20 18:30
第5話 継ぎ刃と鳴き盾
2026/10/22 07:00
第6話 千縫いと打ち直しの鍬
2026/10/22 10:10
第7話 抜かずの剣と鋳直しの勲章
2026/10/23 11:40
第8話 七代目
2026/10/24 18:40
第9話 合図貝と泣き袋
2026/10/24 20:00
第10話 待ち歌と綱曳き歌
2026/10/25 08:10
第11話 止め声と並び鐘
2026/10/25 08:10
第12話 十二の息
2026/10/25 08:10
第13話 千縄のカグナ
2026/10/26 13:30
第14話 結び初めのユイナと刻盗人のリオ
2026/10/27 09:50
第15話 初代王と始まりの詠み手
2026/10/27 14:30
第16話 名消しの子守歌
2026/10/27 14:30
第17話 選り札と征竜丸
2026/10/28 14:10
第18話 置き薬と十の葉
2026/10/28 14:10
第19話 不老の丹と黒い薬
2026/10/29 18:30
第20話 なかった縄
2026/10/29 18:30
第21話 夢番と歩き寝
2026/10/30 12:30
第22話 三度の名と月喰いの札
2026/10/30 12:30
第23話 夢買いと香の枕
2026/10/31 07:40
第24話 陣の朝夢
2026/10/31 07:40
第25話 月番と白木の箱
2026/11/01 08:00
第26話 送り膳と空結び
2026/11/01 08:00
第27話 縄返しと骨挽き所
2026/11/02 12:00
第28話 空送り ――騎竜の民の話
2026/11/02 12:00
第29話 三つの名と隠し縄名
2026/11/03 12:30