第5話 継ぎ刃と鳴き盾
食べ物の話のあとは、兵が腰に下げるもうひとつのもの、刃の話をしましょう。
その前に、こちらの世界の決まりをひとつだけ。人が長く使った物には、その人が少しずつ宿ります。癖も、技も、ときには怖さも。こちらでは、これを「宿り」と呼んでいます。言霊縄が持ち主の覚えた味を出せるのも、この決まりのおかげです。
【人間の王国】
◆継ぎ刃
戦死した兵の剣を回収し、新兵の背丈に合わせて打ち直したもの。王国軍の剣の多くはこれで、新しく鍛えられた剣はめったに支給されない。打ち直された剣には、前の持ち主の剣筋が宿っている。剣を握ったこともない新兵でも、継ぎ刃を持てば一人前に斬り結べるのはそのためだ。ただし宿っているのは技だけではなく、前の持ち主が死んだ場所に差しかかると、刃ごと足がすくんで動けなくなることがある。古参の兵は新兵に剣を渡すとき、「前の持ち主の名を聞いておけ」とだけ言う。
◆鳴き盾
生きた飛竜から剥いだ鱗を張った盾。鱗は元の竜を覚えていて、その竜が近づくと低く鳴いて震えるため、騎竜の奇襲を前もって知らせてくれる。兵を送り出す母親は「盾と帰るか、盾に乗って帰るか」と言って送り出す。戦死した兵をこの盾に乗せると、盾はひとりでに浮かび上がり、故郷のほうへゆっくりと滑っていくからだ。
【戦場の決まり】
◆七代の決まり
剣の打ち直しは七代まで、と決まっている。七人分の剣筋を宿した剣は、八人目の手には重すぎるとされ、七代目は鍬に打ち直して畑へ返す。鍛冶場は打ち直すたびに茎へ刻みをひとつ入れ、剣が何代目かを記している。
◆刃鬼
七代の決まりが守られなかった剣の成れの果て。何十人もの剣筋を宿した剣は、持ち手がいなくても自分で立ち上がり、戦を探して夜の野をさまよう。刃鬼に出会った兵は、剣を抜かずに伏せていればよい。刃鬼が探しているのは、斬り合う相手だけだからだ。
刃鬼を見たことがあるか、と聞かれたら、あります、と答えます。私はたいていのものを見ていますから。夜の野を一振りの剣が歩いていく姿は、恐ろしいというより、少し寂しいものです。
次は、町の人々の暮らしに戻ってくる刃の話を。




