第6話 千縫いと打ち直しの鍬
刃の話の二回目は、町と村の話です。
その前に、暦のことを少しだけ。こちらでは、ひと月を月の満ち欠けで四つに分けます。闇、弦、満、欠。人は生まれた夜の相によって、少しずつ違う力を持って生まれてきます。今日の話に出てくるのは、満の夜に生まれた人たちです。
◆千縫い
兵を送り出す家族が、町じゅうの千人に一針ずつ縫ってもらう白い腹巻き。縫った人の願いが針目に宿り、刃を一度だけ逸らすという。満の夜に生まれた女は縫い目に願いを残す力が強いため、ひとりで自分の歳の数だけ針を入れてよいとされる。出征の前の月になると、町の辻には針と布を持った母親たちが立ち、通りかかる者は誰でも足を止めて一針を入れていく。断る者は、まずいない。
◆打ち直しの鍬
七代の務めを終えた剣は、村の鍛冶場で鍬に打ち直され、畑へ返される。刃に宿っていた剣筋は土を耕すことを覚え、戦の多かった剣ほどよく耕す。ただし夜中にひとりでに畑を斬り荒らすことがあるので、農家は寝る前に鍬を縄で縛っておく。使われずに納屋の隅に置かれた鍬は、驚くほど早く錆びてぼろぼろになる。誰にも覚えられていない物は、ほどけていくからだ。
◆包丁守り
何代も同じ家の台所で使われてきた包丁。家の者の指だけは、どれほど手元が狂っても決して切らない。盗人が握ると柄が熱くなって手を離させるので、留守のあいだは戸口の内側に吊るしておく。嫁入りのとき、娘は母の包丁を一本だけ持っていく。
歳の数え方についても、少しだけ。こちらでは家ごとに一本の暦縄を持ち、毎晩ひとつ結び目を作って日を数えます。生まれた子の臍の緒はその年の暦縄に編み込まれ、そこから何本目の縄かが、その人の歳になります。ですから千縫いの「歳の数だけ」は、「自分の縄の数だけ」という意味です。
次は、宮廷の刃の話です。宮廷の刃は、あまり斬りません。




