第2話 路地の鍋と屋台
兵の袋の中身は、やがて町へ降りてきます。割れた米、硬すぎるパン、樽の中で暴れる触手。今夜は、庶民の台所のお話です。
◆くず月粥
月干し飯を作るときに割れてしまった米を、安く払い下げてもらって炊いた粥。光る力は弱いものの、器の中でぼんやり青白く灯るため、貧しい家では夜の灯り代わりにもなる。「子どもが怖がって眠れない夜は、月粥を枕元に置け」という言い伝えがあり、庶民にとっては食事というより暮らしの道具に近い存在である。
◆千年鍋
酒場や宿屋の大鍋で、火を絶やさず具を継ぎ足し続ける煮込み。中身が空になることは決してなく、老舗の店では「この出汁は三百年前から続いている」と自慢する。あまりに古い鍋は意思を持つと噂され、気に入らない具を入れると鍋が吐き出すという話もある。旅人は宿を選ぶとき、まず千年鍋の年齢を聞くのが習わし。
◆炎這い串
屋台の主人が飼っている炎這いの背中に、肉や野菜の串を並べて焼く庶民の軽食。炭も薪も要らないため、街角のどこでも商売ができる。炎這いの機嫌で焼け具合が変わるので、腕のいい屋台ほど炎這いを大事にしており、売れ残りの串は炎這いの餌になる。
◆霊芋の田楽
言霊縄に使う霊芋の、茎ではなく芋のほうを茹でて味噌を塗った素朴な料理。収穫祭の夜には、皿の芋が小さな声でささやくことがあり、それを聞けた者はその年の運が良いとされる。何をささやいているかは、聞いた人によって言うことが違う。
◆一晩粥
ドワーフの鉱山町の庶民料理で、硬すぎる石パンをエールに一晩浸して柔らかくしたもの。人間の出稼ぎ鉱夫でも食べられるよう工夫された結果生まれた。翌朝には少し酔えるほど酒が染みているため、町の朝はどこかのんびりしている。
◆跳ね唐揚げ
港町の名物で、潮漬け触手を揚げたもの。揚げてもしばらく皿の上で跳ねるため、「最初に掴んだ者が食べてよい」という早取りの遊びが酒場で流行している。
◆嘆き果の蜜漬け
砂漠の村で、兵糧用の嘆き果を蜂蜜に漬けて酸味を和らげた子ども向けの菓子。それでも少しは涙が出るので、村の子どもたちは「泣かずに食べられたら一人前」と競い合う。
千年鍋のことを、少しだけ覚えておいてください。いずれ、ある宿の鍋の話をしますから。




